世界がタックスヘイヴンになる日 【橘玲(たちばな・あきら)アーカイブス】 中央公論2009年6月号に掲載された、橘玲による「世界がタックスヘイヴンになる日」の オリジナル原稿全文を掲載します。(09/06/10) 香港人のプライベートバンカーからその奇妙な名刺を見せられたのは、3年ほど前のことだった。名前のほかに、携帯電話の番号とホットメール(マイクロソフトが運営する無料メール)のアドレスしかない怪しげな名刺は、日本出張の必需品だという。それ以外にも、顧客情報の入ったパソコンの携行は許されず、資料はあらかじめ現地の知人宛に郵送しておくなど、さまざまな規則があるのだと教えられた。 その当時、UBS、クレディスイス、香港上海銀行など大手金融機関のプライベートバンク部門は、香港に日本人(および日本語を話す外国人)担当者からなる「ジャパンデスク」を擁し、日本の富裕層を積極的に開拓していた。いずれも