女は弱し、されど母は強し――。 フランスの詩人、ヴィクトル・ユーゴーが残したとされる名言である。 北海道日本ハムファイターズには、何人もの「母」がいる。傍目には男社会のプロ野球だが、献身的に全身全霊で尽くす女性たちがいる。そんな数多の大きな愛に支えられながら、チームは生命力を宿す。 春は別れの季節である。旧年度の最終日である3月31日、本拠地の札幌ドームの開幕3連戦の2戦目。舞台裏は、センチメンタルな空気に満ちていた。ファイターズの誰もが敬愛するレジェンドと、お別れの時を迎えたのだ。 ファイターズにとって、紛れもない「母」の1人だった。工藤悦子さん。札幌ドームのグラウンドキーパーを14年間、務め上げた。ファイターズが北海道に拠点を置く1年前からである。定年退職の日が、埼玉西武ライオンズとの一戦だった。謙虚で、実直な人柄。絶妙な距離感で皆と接し、控えめな性格の女性である。 工藤さんらしいが、