それは彼女にとって、あまりにも突然の別れでした。市民が無差別に狙われた「地下鉄サリン事件」。駅員の夫は、乗客のため猛毒のサリンを拭き取り、力尽きました。妻の高橋シズヱさんは、事件から25年になろうとする今も、被害者や遺族を代表して声を上げ続けています。もう二度と会えない夫のために。そして同じような悲劇を起こさせないために。彼女の願いを伝えたくて、私はこの記事を書きました。(社会部記者 馬渕安代) 平成7年3月20日。高橋シズヱさんは、地下鉄霞ケ関駅からほど近い、病院の個室の中にいました。大勢の負傷者で混み合う病院の通路を、どのようにくぐり抜け、病室の扉を開けたのかはおぼえていません。 気がついたら、白いカーテンの前に立っていました。カーテンを開けて、目に飛び込んできたのは、向かって左側のソファーに腰掛けた長男の姿でした。その反対側にはベッドが。 シズヱさんはおそるおそるタオルケットをめくり