辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。 高校時代に習ったであろう、漢文のことを思い出していただきたい。その中に「再読文字」と呼ばれる、特殊な読み方をする漢字があったことをご記憶だろうか。訓読の際に、一度読んだあと、下から返ってもう一度読む漢字のことである。たとえば、「当」を「まさに(…す)べし」、「未」を「いまだ(…せ)ず」、「猶」を「なお(…の)ごとし」などと読むたぐいである。 「須」という漢字もその仲間で、「すべかラク~ベシ」と読まれる。「須」という漢字の字音は「シュ」「ス」で、この「すべかラク~ベシ」という読みは、この漢字を訓読する際に生み出されたものである。文法的に説明するなら、サ変動詞「す」に推量の助動詞「べし」の補助活用「べかり」のついた「すべかり」のク語法ということになる。ふつう下に