昨年の夏に、妻とコートジボワールに里帰りしたときのこと。 パリで飛行機を乗り継ぐ際、空港内でパスポート・コントロールがあった。あるゲートに20人ほどが列をつくり、すこし大柄な女性職員がパスポートをチェックしている。 妻の番が来ると、職員は「ひとりなの?」とやや硬い口調で質問してきた。パリの空港ではテロの影響もあり、セキュリティ関連の仕事に就く人々はつねに緊張している。 妻が、「いえ、夫と一緒です」と答えると、彼女は列に並ぶ人を見渡しながら怪訝そうな顔をして、少々怒ったように「どこ!?」と聞き返した。 妻がすぐ後ろに並んでいる私を指さすと、彼女は一瞬眼が点になったように私を見つめ、すぐに恥ずかしげに、はにかんだような笑顔を浮かべた。 女性職員は列を眺めたとき、無意識のうちに黒人男性を探したのである。だが黒人はひとりもいなかった。 この女の言っていることが分からない。怪しい、そう思ったことであ