1980年ごろ、上京の折に訪ねた国立競技場の光景が忘れられない。Jリーグの前身、社会人リーグ(JSL)の試合をやっていた。ゲートから中に入ると、客席を埋めていたのは50人を出ていなかった。5万人収容のナショナルスタジアムで、これだけ人がいないのも壮観だった。 センターライン上の両スタンドに陣取る両軍応援団で計40人弱。中古のラジカセの割れるような大音響に合わせて踊る数人のチアガール、囲むようにして声をからす男性社員たち。そんな2つの小さな人の塊(かたまり)を除けば、グルッと見渡して10人いたかどうか。空っぽの客席を散歩した。聖火台近くに並んで座るアベック、新聞を読む中年男性、昼寝をしている男性もいた。 ひどい試合だった。両軍DFとも「蹴鞠」のようにクリアボールを漫然とけり上げ、相手が迫ってくるとすぐライン外にボールを出す。「競り合ってけがしたくないんだ」と思った。そのときだった。客席に座っ