「僕はソニーに残りますよ。まだ若いからね。前へ前へと進むのが僕の美学だから」 ソニーが新経営体制を発表した、その日の夜、久多良木健はいつもと同じように早口で話し始めた。 執行役副社長として、半導体、デジタル家電、ゲームというソニーの中核事業を担当、次期社長の有力候補と目されていた。だが、それだけにエレクトロニクス不振の責任を一身に背負い、詰め腹を切らされた形になった。6月22日付で取締役を退任、半導体とデジタル家電の担当を外されて、久多良木の原点であるゲーム事業だけがかろうじて手元に残る。 エースと言われた男の蹉跌。無念だろう。自分を道連れにした出井伸之への恨み節の1つぐらいぶちまけてもおかしくない。辞表を叩きつけてソニーを辞めるのではないか。そう思う者は少なくなかった。久多良木への処遇はそのくらい厳しいものだった。 本心なのか矜持なのか 「気分は晴れで、気持ちがいい。すかっとしている。今