星里もちる『ルナハイツ』/68点 「かわい女子と寝て暮らそ」 日本で最初に発禁処分になったレコードの歌詞である。 近代の一つの新しい女性像を示した女優・松井須磨子が歌ったトルストイの劇中歌の一節だ。天皇制権力にとって、この欲望は目もくらむほどに危険な思想だったようである。逆にいえば、近代の男性の欲望の原型の一つであろう。 星里もちるが描いてきた欲望は、『りびんぐゲーム』以来、一貫してこれであった。 しかも、そのうち、「暮らそ」という点に、多くはアクセントがおかれている。 『りびんぐゲーム』『オムライス』『気になるヨメさん』は典型的なそれで、かわいい女の子と一緒に住むというテーマが正面から扱われている。 それ以外の、たとえば、『結婚しようよ』『夢かもしんない』でも、やはり好きな女性と「暮らす」(または「暮らせない」)ことへの執着が強い。 タッチをガラリと変えたといわれた、近作の『本気のしるし