ナチスの手を逃れ、ニューヨークにたどり着いたユダヤ人の少女は、紆余曲折を経てマンハッタンにある古いホテルのオーナーになった。95歳になったいまも経営に携わるその女性を、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が取材した。 「ホテル・アール」に引っ越しても構わないか──1980年のある夜、リタ・ポールは夫のダニエルにそう尋ねた。 そのホテルは、ニューヨークはマンハッタンのダウンタウンにある、グリニッチビレッジのウェーバリー通りとマクドゥーガル通りの交差する角に立つ。 それはさほど奇妙な頼みごとでもなかった。ポール一家は1973年から、当時すでに築70年だったアールを所有していた。アールは、ポール家が手に入れる頃にはすでに、飾り気のない居住用ホテルから幅広い客層を引き寄せる型破りな隠れ場へと発展していた。 リタ・ポールは自分の隠れ場として、4階にあるつながった4室に目をつけていた。「当時は空室がたくさん