犬川隼人は、女を物色している。それは毎日続いた。男の、日課だった。男は東京メトロ渋谷駅銀座線ホームと男子トイレを清掃する仕事をしている。自分を恥じている。本当の俺ではない、と思う。本当の俺を発揮せねば、と思う。本当の俺は世界を動かしうる存在なのだ、と思っている。40を過ぎたころ、男は、あきらめる。認める。自分は敗北者なのだと、知る。知った、と思う。犬川の血筋に、夢(それがなんなのかは犬川自身にもわからないのだが)を託さねばならぬ、と至る。俺にふさわしい、犬川の名にふさわしい女を捜さねばならぬ、と、男は、至る。 それから犬川の女探しがはじまる。犬川は東急田園都市線を使って出勤している。仕事は7時に始まり、16時に終わる。仕事が終わるとスターバックスで18時まで時間を潰し、電車に乗る。 冬のある日、犬川は「これだ!」と自身が感ずる女に出くわす。年のこうは三十くらいであろうか、強いまなざしをして