蝉が鳴いている。真夜中だというのに鳴いている。街灯は明るく、まるで太陽と見間違うほどに煌々と辺りを照らしている。蝉が鳴くのも無理はない。そう思う。幸子は言う。「ほら、蝉が鳴いている。夜だというのに…。ねえ、日田。蝉は地上に出て、一週間ほどしか生きられないそうだね。なのに、蝉は鳴いてばかりいる。一体、蝉は鳴くために生まれてきたのかな。鳴くことに何の意味があるの?何のために生まれてきたの?何のためにあたしは…」それだけ言い、幸子は沈黙した。私は答えを探し、探し、探しながらゆっくり答える。「或いは人間も同じかもしれない。生まれて鳴いて、鳴いて、鳴いて終り。でも、蝉も人間も子孫を残すことができる。それがすべて。でも君は…」私は答えを見つけられなかった。