李 啓充 医師/作家(在ボストン) (2787号よりつづく) 第一期ホワイトホール・スタディが示した想定外の結果 社会経済的格差が健康格差の原因になるとする「格差症候群(status syndrome)」の名付け親が,英国人医師マイケル・マーモットであることは前述したが,マーモットは,英国国家公務員を対象とした大規模なコーホート研究「ホワイトホール・スタディ」を長年にわたって指揮してきたことで知られている。 もっとも,厳密に言うと,マーモットがかかわったのは,1985年に始められた「第二期」ホワイトホール・スタディであり,1967年に始められた「第一期」ホワイトホール・スタディは,実は,フラミンガム・スタディ(註1)の「英国版」を樹立することを目的とするものだった。それだけに,「行政組織内の職階の上下に応じて公務員の死亡率の高低が生じる」とするデータは,まったく「想定外」の結果だったのだが