問題の多い安能版『封神演義』 おそらく、現在『封神演義』としてもっとも知られているのは、講談社文庫の3冊本でしょう。これは安能務氏が書いているものです。 『封神演義』について論ずる時、これに基づく方も多いようです。しかし、この『封神演義』は、実は翻訳とはとても言えません。 正確には『封神演義』に基づいて、安能氏がまったく別の小説を書き上げたと言ってよいでしょう。それほど、本来の『封神』とは違っている部分がたくさんあります。 例えば申公豹ですが、彼は純然たる悪役で、終始主人公たる姜子牙と対立することになっています。しかし、安能版では、まるで中立のような設定で書かれています。さらに、安能版『封神』には浮いた話が多く、楊戩と龍吉公主との間を疑わせるような記述がありますが、原作では楊戩はひたすら堅物であり、そのようなことはあり得ません。そもそも『封神』自体、土行孫を除いては、そういった話が