歌舞伎に出てくる病人は病鉢巻(やまいはちまき)をしています。紫色の縮緬の鉢巻を、額の左に結び目を作ってしめてだらりとたらしたり、箱結びにしたり。時代劇でもお馴染みでしょう。 病鉢巻は抗炎症・解毒・解熱の薬効があるといわれるムラサキの根で染められています。また、紫色は高貴な色で悪いものを寄せ付けない色と考えられていました。このように、病鉢巻は薬草と「おまじない」的な効果を狙ったものであったようですが、頭痛を抑えるためにこめかみに梅干を貼って、さらに鉢巻で頭を巻いて圧迫した、などという説もあります。 病鉢巻をしている歌舞伎の中の登場人物で印象に残るのは美しい「病人」達。この場合、身体の病気よりも気の病の方が多いようです。舞踊の『保名(やすな)』では安倍保名が乱れ髪に病鉢巻、許婚の榊の前の形見の小袖を抱いて、菜の花一面の野原を想い乱れて狂い歩く。とても美しく、狂乱舞踊の代表作になっています。多く