本当の登山へのオマージュ解説 大学を卒業してから2年ほど、まともに仕事もせずにぶらぶらしていたことがある。学生時代に探検部で活動していたせいで、卒業してからも探検家になるという夢を捨てきれなかった私は、過ぎ去っていく青春にしがみつくように貧相な暮らしを続けていた。半年間ほどのニューギニア島の旅から帰国した後、登山仲間から土方のアルバイト先を紹介してもらい、工事現場に何週間も寝泊まりして、昼間はスコップを振るい、夜は作業員の食事を作り、酒をかっくらって疲れ果てて眠る。そして時折、休みをもらって山を登りに行く。そういう生活だった。 物書きになりたいという欲求は、当時はさほど強くなかったと思う。でも文章を書くことは嫌いではなかったので、登山記録を何度か「岳人」という名前の山岳雑誌に投稿したことがある。「岳人」には「登山クロニクル」という登山記録を紹介する短信欄があり、ちょっと目立ったものであれば