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ブックマーク / hankinren.hatenadiary.org (15)

  •  空と君とのあいだに - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    「あんたは、優しい子だから」 と、母が言った。 私が男の言われるがままに、男を自分に繋ぎ止める為にサラ金で借金を重ね、家賃も払えず、働いても働いても金利が膨らみ、仕事場には金融会社からの電話がかかってくるようになり、遂には両親に全てがバレた時に、「理由」を聞かれて、「男の人に」とだけ私が答えた時に、悲しそうに母はそれだけ言った。 まだ責められたり罵倒されたりする方が気が楽だった。いっそ縁を切り、見捨てて欲しかった。 私は優しくなんかはない。弱いだけだ。弱いから依存した、弱いから男を引きとめようとした、弱いからそこから逃れることが出来なかった。意志が弱い、心が弱い、生きていくことが難しいぐらい弱い。だから唯一自分を認めてくれて理解してくれていると、当時は思っていた初めての男を繋ぎ止めるため、彼が大切にする婚約者の元に返したくないために言われるがままに金を渡していたのだ。 今となればその男が私

     空と君とのあいだに - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  仕事中毒 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    大学生の頃、京都で有名な占い師の方に手相を見て貰ったことがある。 「あなたは結婚仕事の両立は出来ない」 と、言われた。 それから十数年が経ち、幸い(?)結婚には全く縁が無いけれど、なんとか1人で働いてっている。結婚仕事の両立が出来ないというのは、バランスがとれないとか、器用じゃないとか、そういう意味では当たってるのかもしれない。 だけどもし、これから先、結婚することがあったとして、相手が経済的に余裕がある人だとしたら、どうするだろうか。 この前、大阪で数時間時間を潰さないといけなくて、歩き回るには体調が良くなかったのでネットカフェに入り、安野モヨコの「働きマン」を読んだ。 読んで「あー」とか「うー」とか思って、わかるなぁと思ったり、痛いとこつかれるなぁと思ったり。 しかし、一番わかるって思ったのが、仕事ん時になると男スイッチ入るって感覚。 男スイッチ入らないと、仕事出来ない。 どうい

     仕事中毒 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  ふりんよりぷりんがいい - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    会社でも友人同士でも、最近中川元大臣の会見の話ばっかりしているのですが、あの会見とあの後の行動についての報道を見て、あーバスの客でようこんな酔っ払いおるわーと思いました。 添乗員の言うこともガイドの言うことも聞かへんで注意したら逆ギレして絡んでくるねん、触るな言うても、ベタベタ国宝とか触るねん。注意したら、「俺は客だぞ!」みたいな高圧的な態度とるねん。 ほんまに酔っ払いはタチ悪いしどうしようもないし、周囲に迷惑かけまくってるわー。社員旅行とかで酔ってムチャするヤツとかなぁ、あんなん絶対損してるで。周り(特に女子社員)は結構冷めた目で見てるねんし、そんな「酔ってるから迷惑かけても許される」思うとるやつを、誰が仕事で信用すんねんなって、思う。 あの中川会見を今度、仕事で言うこと聞かへん酔客おったら、 「あの会見皆様ご覧になりました? 酔っ払いって当に迷惑でみっともないですね。皆さんも気をつけ

     ふりんよりぷりんがいい - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……(夜長姫と耳男より) まっすぐ家に帰りたくない夜が、ときどきある。 何か帰りたくない明確な理由があるわけではない。帰ってみても、誰もいない。わずらわしいものなどいないのに、何となくまっすぐ帰りたくない夜がある。 夜がそうさせるのだろうか。普段忘れようとしている心の底の深い部分を、夜が闇と共に沸き起こすのだろうか。忘れたいことや、考えたくないことがありすぎて、だからこそ忙しく何かしていたいのだが、それでも隙を見つけ奴等はわさわさと目を覚まし、不安と悲しみと怒りを思い出させる。 まっすぐに家に帰りたくなかったある夜に、屈とした気分で私はいつもと違う駅で降りて、ある屋に向かった。駅前にあるショ

     好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  あなたとわたしのセックスの話 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    さてさて、前回の記事の講演が行われている頃、私はどこでどうしていたのかというと、大阪の堂山町で開催されておりました「セックスワーカーのいる街 2008」というイベントに行ってまいりました。 概要はこんな感じです。 ◆主催: (財)エイズ予防財団 ※このイベントは、平成20年度厚生労働科学研究費エイズ対策研究推進事業・研究成果等普及啓発事業により開催されます。 ◆プログラム ☆ 挨拶と研究班の成果発表(東優子)“セックスワークと性の健康” ☆ トークショウ(1)桃河モモコ×要友紀子×タミヤリョウコ “セックスワーカー連帯の過去・現在・未来”は、“セックスワーカー連帯の過去・現在・未来〜私たちが安心して働ける未来はあるのか?!〜” ☆ トークショウ(2)松沢呉一×シモーヌ深雪×桃河モモコ“安心するともっと感じる、ってソレほんと?” こちらの「せくすばっ」のHPをご覧頂いたらおわかりいただけると

     あなたとわたしのセックスの話 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  おれのおんな - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    司馬遼太郎が大村益次郎(村田蔵六)を描いた「花神」という小説について、筋から離れたところで少しだけ触れたい。 「花神」の冒頭に、司馬遼太郎と大阪大学教授・藤野恒三郎教授との会話の中で、藤野教授がこう言っている場面がある。 「大村益次郎とシーボルトの娘の関係、あれは恋でしたろうね」 そして、藤野教授はもう一度、自問自答するように、こう言う。 「私は、恋だったと思います」 村田蔵六の似顔絵を見ると、額が広く眉が太く間違っても男前ではない。しかも無口で、とびきり無愛想だったと伝えられている。 「シーボルトの娘」というのは、長崎出島で鳴滝塾を開き高野長英らの師でもあったドイツ人医師・シーボルトと日女性との娘・楠イネのことである。イネは蔵六にオランダ語を学び、後に日人で初めての西洋医学を学んだ産科医となった。 イネは生涯独身だったが、娘がいた。この娘は、医学の師であった石井宗謙に無理やり一度

     おれのおんな - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  • あの日になんて帰ってたまるかよ冗談じゃねぇよ - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    先日、知人が27歳のお誕生日だということで、ふと自分がその歳の時に何をしていたのか思い返してみました。 初めての男に依存して貢いで(この頃は、この人しか男を知りませんでした)サラ金地獄。大学は留年して中退して、一応就職はしていたけれども、夜はテレクラのサクラ。貢いだ男には他に命がいたので人間扱いすらされずお前のせいで俺は云々と精神的な暴力を振るわれ、それ故に「私のせいでこの人は仕事しないんだ、私みたいな人間のクズを相手してくれるのはこの人だけだから嫌われていてもこの人を助けないといけない」と思いこみ借金を増やす狂った日々。学歴無しキャリア無し将来無し希望見えず。毎日「死にたい」と唱える日々。 うわっ。 駄目すぎっ。 女として以前に人として最悪っ! 今冷静に振り返ると、ツッコミどころ満載に明らかにおかしい男の理屈に支配されてた。なんせその男は当時の私の「神」だったから。そしてこのあんまりに

    あの日になんて帰ってたまるかよ冗談じゃねぇよ - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  彼女の見た夢 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    ずっと心に描く 未来予想図は ほら思ったとおりに叶えられてく ドリカムの「未来予想図2」を聴く度に、思い出す1人の女がいる。かつての同僚だった彼女は、ドリカムの大ファンだった。彼氏が嫉妬深くて、前の彼氏関係のモノは全て捨てさせられたけれど、吉田美和と前の彼氏と3人で撮った写真だけは捨てられないと言っていた。 彼女は私と同年代の仕事仲間だった。知り合った頃、彼女の薬指には指輪が光っていた。誰かがその指輪のことを聴くと、最近同棲し始めた彼氏と一緒に買った指輪だと嬉しそうに答えたらしい。 彼女と同じ指輪をしている男性が仕事関係者に居た。彼女と彼は最初は照れていたが、そのうち2人の交際をオープンにして、皆の公認になった。彼と彼女が同棲を始めた時、彼の同僚達がお祝いに自転車プレゼントしたという。その自転車には、彼の名前と、彼の名字の下に彼女の名前が書かれていたそうだ。それを見て彼は、「もうすぐ、こ

     彼女の見た夢 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  AVとセックスと混乱と矛盾と - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    私は時折、アダルトビデオが怖い。 そして時には「痛い」。買うことや所有することだけではなく、「セックスが描かれているアダルトビデオというもの」がいろいろな意味で怖くてたまらなくなる時があります。 AVを見て、そこに出演して裸でセックスする女性に対して「申し訳ない」って思う時があります。そしてそう思うことはあまりにも欺瞞に満ちている事を自覚しながら、その想いを拭えないし、罪悪感も感じるのです。 私の中で、どこか「女の裸」「セックス」は、そんな安いものであってはいけない、そして「仕事のセックス」は良くないものだという意識が存在するからAVを見る時に「申し訳なさ」や「罪悪感」があるのだと思います。3000円ほどの金額で、ましてやタダで「セックス」を見させていただくなんて申し訳がない、と。セックスの映像を商品として買い所有することは良くないことだと。ハダカを、セックスを売る女の人に対しても、それを

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  • さらば甲子園の星 ― 桑田真澄、清原和博 ― - 歌餓鬼抄

    俺は弱いということが嫌いなんだよ、でも俺は弱いんだよ 今、手元にが無いために正確ではないかもしれないが、この言葉に胸をつかれ、ページをめくる手を止めた。そして何度も、この言葉を目でなぞった。 弱さなど微塵も感じさせず「悪太郎」「甲府の小天狗」などと呼ばれた巨人軍投手・堀内恒夫を描いた海老沢泰久の「ただ栄光のために」というに登場する堀内の言葉である。新人の堀内恒夫が寮生時代に門限破りを繰り返し、王貞治に殴られたエピソードは有名である。そのような豪快な伝説を残した堀内は35歳でユニフォームを脱ぎ、自らの引退試合にはホームランを放った。 上記の台詞を目にした時に、なんと残酷で切ない仕事なのだろうかと、思った。自らの栄光も衰えも大衆の目に曝け出さねばならず、そして「チーム」と「ファン」を背負い力尽きるまで全力で走り続けねばならぬプロ野球選手という仕事は。 1990年代初め、巨人軍を支える「三

    さらば甲子園の星 ― 桑田真澄、清原和博 ― - 歌餓鬼抄
  •  恋ニ酔ヒ、愛ニ死ス ―「らも 中島らもとの35年」 中島美代子・著 ― - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    「中島らもが、死んだ」 平行線のままのどうしようもなく暗い話の最中、ふいに電話の向こうの男がそう言った。 電話の相手は、私が19歳の時に出会った私の初めての男。私はその頃、彼に貸す為に借りたサラ金の返済がどうにもならなくなり、全てが親にバレて実家に戻って罪悪感と自分自身の愚かさと未来の見えなさでグチャグチャになっていた。それでも何とか金を少しでも返して貰えないだろうかと知人を通じて彼に交渉していた。直接話すと私は「負けて」しまうから知人に間に入って貰ったのだ。 知人から連絡が来た彼は逆ギレして私に電話をかけてきた。「返して」「無いものは返せない、それに俺はお前の欲しいものを与えてやってたじゃないか」何十回も繰り返したどうしようもないやりとりにお互いうんざりし疲れてしまい沈黙が訪れた。私は泣き疲れ怒鳴り疲れていた。その沈黙を破り、ふいに彼が中島らもの死を告げたのだ。 彼は一時期、小説家になる

     恋ニ酔ヒ、愛ニ死ス ―「らも 中島らもとの35年」 中島美代子・著 ― - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  三十歳までに、死のうと思っていた - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    三十歳までに、死のうとおもっていた。 20代の頃は、30歳になるまでに早く死ななければと思って生きていた。年をとってまで、生きていようとは思わなかった。どうせ何もいいことはないだろうし、何も手にしていなかったし、自分なんて何の価値も無いと思っていた。嫌なことや苦しいことがたくさんあって、毎日死にたい死にたいと思っていた。楽しいことも少しはあったけれども、それは長くは続かないと思っていたし、これから先ものごとが良くなるとは思えなかった。 だけど自殺する勇気も無くて、高い場所の窓から地上を眺めたり、線路の脇にただ立つぐらいしか出来なかった。死ぬ勇気も無い自分は脆弱だと自己嫌悪に陥っていたし、誰か殺してくれないだろうか、一瞬で死ねるような事故に遭遇しないかと、毎日思っていた。 だから、30歳過ぎてからのことなんて、何も考えていなかった。将来なんてものは自分には無いと思っていたし、時折明るい未来の

     三十歳までに、死のうと思っていた - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  • 彼女からの年賀状 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    毎年送られてくる一枚の年賀状がある。送り主はFという同級生の娘だ。普段は特に連絡をとることもないが年賀状だけは毎年やりとりしている。 Fは背が高く、おとなしく少し暗い雰囲気の娘だったが優しい娘だった。Fは自分が背が高いことと「私はブスだ」ということを気にしていた。確かに彼女は美人ではないけれども雰囲気の良い娘だしブスということはないと私は思っていた。 Fの出身中学は田舎の小さな学校だった。何故だかFだけは同じ中学出身の他の人達と行動を別にしていたし少し浮いているようだった。お互い嫌い合ってるというわけではないけれども何となくよそよそしかった。 ある日、その理由をFから聞いた。 Fの中学は雪深い山にあるので、冬場は遠くの生徒は通学が困難なので学校に隣接している寮で生活をしていたのだ。その頃、Fは同級生の、ある男のことが好きだった。名をYとする。Yも同じ高校に来ていたので私も顔は知っていた。背

    彼女からの年賀状 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  人は死ぬ - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    ある、秋の日の雨の土曜のことだった。 週末なので、いつもの通勤ラッシュの時間も電車は空いていた。私は傘を持ち会社に出勤して午前中だけ通常業務を済ませて昼過ぎには社長と一緒に会社を出た。社長は、これから病院へお見舞いに行くのと言って車でビルを出た。 お見舞いの相手は、社長の長年の仕事仲間であり、友人でもある50代前半の女性だということだった。 そして翌々日の月曜日、いつもより早く社長が出社していた。黒い服とパールのネックレスをして。 「今日、お葬式だから、昼から留守にするからね。」 と、社長が私に言った。 「土曜、私が、お見舞いに行ってた人、昨日亡くなったの。」 月曜日は朝から真夏がぶり返したような暑さと青空が広がっていた。日傘を持ってくればよかったと後悔した。亡くなった人は、癌だったそうだ。 「彼女は、私を待ってたと思う。だって、私がお見舞いに行った次の日に、亡くなったんだから。」 そう言

     人は死ぬ - 花房観音  「歌餓鬼抄」
    Griffin
    Griffin 2007/01/17
    まさしくその通り
  • 巷に雨の降る如く - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    巷に雨の降る如く 我が心にも涙降る かくも心に滲みいる この悲しみは何ならん P・ヴェルレーヌ 「雨」という映画がある。あるいは「雨の欲情」。原作はサマセット・モーム。舞台は雨季の太平洋の島。そこにやってきたジョーン・クロフォード(マレーネ・ディートリッヒいわく、ギョロ眼の醜い女。そういうディートリッヒは、三島由紀夫に西洋版おかめ呼ばわりされてるが)演じる娼婦、それに群がる男達、それを非難する敬虔な牧師夫婦。しかし牧師は神の名において、性の快楽に溺れる享楽的な男達と娼婦を更正させようとする。一度は更正して神の御子となったかのような娼婦。しかし、降り続く雨と、祭祀的な太鼓の音の中、最後には、牧師も娼婦の誘惑に陥落され、己の性欲に負けた絶望で海に身を投げ命を絶つ。 私には血の繋がった兄や姉はいない。しかし、兄のような人が一人いた。19歳の時に出会った三つ上のその人は、私に仕事を教えてくれた人で

    巷に雨の降る如く - 花房観音  「歌餓鬼抄」
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