将棋の先崎学九段と言えば、「週刊文春」などに連載をもつ「将棋界の広報マン」的な存在の棋士として知られた。小学5年のときに米長邦雄永世棋聖門下で奨励会入会、17歳でプロデビュー。酒とギャンブルをよくする豪快な性格で、ファンに愛されてきた。「そういえば最近あまり名前を見ないな」と思っていたら、本書『うつ病九段』(文藝春秋)の刊行を知り、驚いた。以前、日本将棋連盟に出入りし、元気なころの先崎さんを知っている評者にとって、驚愕の出来事。発症から回復までの日々を本人がつづった手記だ。 先崎さんが体調を崩したのは2017年6月23日、前日が47回目の誕生日だった。疲れが取れず、頭が重い状態が数日続いた。「不正ソフト使用疑惑事件」の収拾や自身がかかわった将棋がテーマの映画「3月のライオン」の取材対応などに追われ、多忙な毎日が続いていたという。 7月に入ると、対局でも集中力がなくなり、どれも無残な惨敗。不