[fromNumber681号] 反射神経を越えた、イチローの思考。 津川晋一=文 text by Shinichi Tsugawa photograph by Yukihito Taguchi +zoom 忘れ去られてしまうには、あまりにもったいないプレーがあった。5月29日アナハイムで行われたエンゼルス対マリナーズ、4回裏の出来事だ。 時計の針は午後8時を指していた。その時、クインランの打球が中堅で守るイチローのもとへ飛んだ。余裕を持って捕球すると誰もが思った瞬間、いきなりイチローが後ろを振り返った。打球は約3m後方へ落ちた。「センター方向に来たのは分かりましたよ。ただ、その後は……」 実はこの時、空が真っ白になり打球が消える、いわゆる“薄暮”の時間帯だった。外野手にとって最も厄介な、魔の数分間だったのだ。「『絶対にフライは来るな!』っていう念力が弱かった。