小熊英二氏は、「いま歴史教育に何が求められているか――可能性としての日本」(一九九九年、『私たちはいまどこにいるのか』所収)という文章の中で、身分制社会(江戸時代)の教育と明治以降の近代教育の違いについて、実に興味深いことを言っている。 たとえば江戸時代には「寺子屋というものがあり、藩には藩校というものがあり、読み書きそろ盤を教えたといわれている」が、これはわれわれが馴染んでいるような小学校とは全然違う。そもそも「社会のつくり方の前提」が違っているので、農民、武士、商人といった身分に生まれた者は、将来それぞれ農民、武士、商人になることが決まっている。だからそれぞれの身分によって、学ぶこと、習うことが違う。たとえばそろ盤を教えているのは、「主に都市部の商人の子どもを相手にした学校」が中心になっている。また、読み書きといっても、主に「手紙の書き方」を教えていることが多い。これは、「主に農民のな