古代インド、ローマ時代にも記録が残っているほど、整形手術は古くから行われている。とはいえ、長期間にわたって(特に美容目的の)整形手術に対する抵抗感は強かった。医学には健康な体にメスを入れることへのタブーがある上、麻酔や外科技術現在ほど発達していなかったし、そもそも身体は「神」や「王」や「親」から与えられたものであって、個人が勝手に手を加えるのはいけないこととみなされていたからである。 美容整形が普及して行くのは、エリザベス・ハイケンによると、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間である。第1次大戦のころ、戦争で傷ついた兵士の顔や体を治療することが広がり(まだ美容整形への風当たりは強い)、それが第2次大戦にいたる時期には外見を大切にする風潮が強まってきた。そこで医者は、身体の美醜をある種の「病気」にすり替える論理――心理学者アドラーが唱えた「劣等感」という概念――に飛びついたのだという。 劣等感