中国内陸部、四川省の山あい約350キロを走る列車がある。所要時間は9時間。厳しい自然環境から、沿線は中国で最も貧しい地域の一つだ。バスも自家用車もない住民にとって、鉄道は生活の道。人も家畜も一緒に乗る。列車は駅と駅、人々の暮らしを、ゆっくりとつないでいる。 列車番号「5633」。 標高3千メートルを超える大涼山山脈の西のふもと、四川省涼山イ族自治州の普雄(プーシュン)から南下し、攀枝花(パンチーホワ)に至る。四川省・成都と雲南省・昆明を結ぶ成昆線の一部で、少数民族のイ族が沿線住民の多くを占める。 午前7時40分。15両編成の列車が静かに動き始めた。赤土の段々畑。曲がりくねった道には馬を引く男性。遠くに雪山も見える。 朝の日差しに包まれた車内に突然、けたたましい鳴き声が響いた。 ニワトリがにょきにょき首を…