事件は、オンラインで打ち合わせをしている最中に起きた。 ブオンッと風を切り裂くような音を立てて、視界の隅をなにかが横切った。 打ち合わせも終盤にさしかかり、雑談に移行していたので、私はふっと顔を上げる。 布団を干すとき、全開にしていた窓が開いたままだった。 ブオンッ。玄関でまた風を切り裂く音がする。 カナブンだろうか。バッタだろうか。そんなのが飛び込んでくるくらい、暖かくなったんだなあ。 のんきにそんなことを思いながら、私は会議のメンバーに「すみません、ちょっと何か来たので、見てきます」と言い、接続を切った。 「ちょっと何か来た」というのは、盛大な私のブランディングである。最近、ピクサー映画「バグズ・ライフ」を観たので、小さきものの生命を尊び、慈しむ人に憧れていた。 カナブンだかバッタだかに「ふふっ、かわいい子。ここが落ち着くのね。好きなだけ良いのよ」と、声をかけたい気分になっていた。つい
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