遭遇 2000年一世を風靡した伊藤若冲(以下、若冲[じゃくちゅう])には、長い間ゆくえ知れずの幻の名作があった。1927年(昭和2)、恩賜京都博物館(現京都国立博物館)で開催された特別展観「若冲画選」展に出陳された後、1999年までの72年間行方不明だった《菜蟲譜(さいちゅうふ)》である。若冲といえば、豪奢な鶏の絵を思い浮かべる人が多いだろうが、若冲には軽妙な水墨画や版画もあるのだ。その《菜蟲譜》と私の出会いは、若冲の代表作である《動植綵絵(どうしょくさいえ)》(宮内庁三の丸尚蔵館)や《仙人掌(さぼてん)群鶏図》(大阪・西福寺)の画像をインターネットから探し出そうとしていたその途中での遭遇であった。 本物を守る 意外にも若冲には国宝がない。文部大臣が指定する国宝はないが、皇室の所有品である御物(ぎょぶつ)となった《動植綵絵》がある。この作品を所蔵する宮内庁三の丸尚蔵館は、それらの画像公開に