※本記事には物語の内容に触れる記述があるため、作品鑑賞後の閲覧をおすすめします。 映画史を拠り所にする映画作家は、歴史を参照するがゆえに映画史の規範に位置付けられる映画を自身で撮り、その物語の一部にならなければならない。ジョン・フォードの名前をしばしば口にしながら、サミー・フェイブルマンが西部劇への一歩を踏み出せないのとは対照的に、マーティン・スコセッシは謙虚かつ厳かに『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を撮りあげた。 物語の舞台はアメリカ南部オクラホマ州にある先住民・オセージ族の保留地である。この土地では石油が発見され、20世紀初頭にオセージ族は莫大な富を得た。しかし、法律上彼らは資産を管理する能力がないと見なされ、白人がその管理を引き継ぐ「後継人制度」が存在していた。保留地ではオセージ族の人々が何者かによって次々と殺されていったが、捜査はなされなかった。 映画はそうした事前の背景描写