1987年2月、花神社から刊行された津村昌子による津村信夫の回想記。 歳月の流れは早く、私ももう七十余歳。ふと気付くと、信夫の人生の倍も生きたことになります。夫なきあとの人生は、一瞬の夢の間のようにはかない気もしますが、ひとつひとたどれば、たくさんの思い出が交錯し、私にとってはやはり捨てがたい大切な日々でした。 信夫が亡くなった当座は、茫然自失の毎日で、神経衰弱になり、二度も入退院をくり返すしまつでした。どうやら健康をとり戻したのは、翌昭和二十年春になってからのことです。戦争末期の空襲で東京の兄たちも、神戸の母も相ついで焼け出され、鎌倉に移ってきたことも私には力強い支えでした。そして終戦。それにつづく世の中の激しい変動。もう私事でメソメソしているわけにはいきません。食べるため、娘を育てるため、そして信夫の分までが、庭を守るために懸命に生き、しだいに私も変っていきました。 でも、女手ひとつで
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