それは先へ行くほど細くなる40センチほどの白く細長い物体で,巨大なタコの足だと言われれば,確かにそんな形と感触だった。両端をつかんで持ち上げると,軟らかくカーブを描いて垂れ下がる。「3Dプリンターを使って,高分子材料のシリコーンで作りました」と東京大学特任准教授の中嶋浩平は話した。 この人工タコ足を水槽の中に吊し,根元に付けたモーターでランダムに振ると,タコ足は身をくねらせ,踊るように複雑に揺れる。そして数分もすると,自らの動きから「パリティチェック」と呼ばれる基本的な非線形演算の計算方法を習得し,正しい答えをはじき出すようになる。そればかりか,機械学習の性能をチェックするのに使う非線形の学習課題のいくつかを,従来のニューラルネットを超える正確さでやってのける。タコ足の中にCPUが仕込まれているわけではない。このクニャクニャしたタコ足そのものが,学習に必要な演算を蓄積する「リザバー(貯水槽