信太妻 大道芸の一つであった『説教節』の重要な演目の一つである『信太妻』*1は、歌舞伎の『蘆屋道満大内鑑』*2のオリジンと言って良いだろう。安倍晴明の出世話だけれども、一番の聞かせ所は『子別れ』だと思う。縁あって安倍保名*3の妻となって安倍童子丸*4を産んだ葛の葉は、ふとしたことで自分の正体である狐の姿を子供の童子丸に知られてしまう。正体を知られた葛の葉は夫と子供を捨てて本来の住処であった信太の森に隠れることを決意する。葛の葉は障子に一首の歌を残して去る。 恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉 この時、葛の葉本来の姿である狐の獣性の表現として、手を使わず口に咥えた筆で歌を書くとか、障子に映る葛の葉の影が狐であったりと言った演出が加えられる。確か石森章太郎名義の『変身忍者嵐』でも、子別れをそっくり流用していた記憶がある。この『恋しくば』で始まる歌は有名と言ってよいだろう。名田