1993年、ある主婦の自宅の机から、18年前のノートが発見された。 それは書くことが趣味の主婦・小野恵美子によるノートだった。B5判で、122ページに及ぶ内容は、日本映画史上初の女性監督である坂根田鶴子さんへの聞き書きだった。1975年、小野は近所に引っ越してきた坂根さんに話を聞きに行き、そのインタビューをノートにまとめていたのだ。 当時70歳の坂根さんは、戦争で夫を亡くしたKさんと二人で共同生活をしていた。そこに近所の主婦がやってきて、自らの人生を根掘り葉掘り問われ、それに答えた。小野は特段、映画に詳しいわけではなく、時代背景への理解も十分ではなかったようだが、それでも日本初の女性監督がたまたま近所にいた幸運を見逃さなかった。 1904年に京都で生まれた坂根さんが、1929年に日活太秦撮影所に入社し溝口健二監督の助手となり、1936年に初の監督作品「初姿」や記録映画を十数本撮った経歴。女