市長に東北へ行かないかと打診された。一年間。 僕は即答できずに、考えさえてください、と言った。 皆、口では東日本大震災のことを忘れない、とかなんとか言っている。僕もそうあるべきだと思っている。 結局、首都に住み、東北に縁もゆかりもない僕にとって、結局東日本大震災は遠い話なのだ。当事者ではない。痛みを想像することができてもそれは単に想像に過ぎなくて、小説を読んで涙を流すのと何も変わらない。そうではない、そうあってはならないと思っていたのに。いざ、自分が汗を流せと言われれば、この始末だ。 何を恐れているのか。何を躊躇しているのか。何を、したくないのか。寂しがる家族がいるわけでもない。悲しむ彼女がいるわけでもない。何のしがらみもないというのに。 なぜ僕は行きます、と言えなかったのか。 明日の午後には市長に返事をしなければならない。