ON本は数知れず。読んだ数は限られるが、ユニークで、最良、最高の一冊が本書、と断言してしまう。長嶋17年、王22年の全打席完全データを柱に、試合の様々な状況での記録が詰まっている。春、秋のオープン戦、日米野球、外国でのオープン戦の成績まで載せた。ここまでやらないと球界やファンから「記録の神様」とは呼ばれない。 本書の魅力、面白さは、記録=数字に血を通わせ不世出の2選手の姿を描き切ったことだ。たとえば守備について。守備率だけでは守りの巧拙は分からない、と指摘し、「刺殺(飛球、送球を受けて直接アウトにした数)と補殺(ゴロや送球で間接的にアウトにした数)の合計」で守備レベルが分かる、と教える。長嶋入団前年の巨人三塁手のこの数字はセ・リーグ最低。長嶋はこれを71増やしてリーグ2位とした。前年守った3人の三塁手が安打にした71の打球を凡打に変えてしまう働き、と有無を言わさぬ説得力だ。1960年代後半