憶えているのは、いつの間にか夏休みが始まっていたということと、母が眠っている間、小学一年生だった私はおなかがすくと缶詰のシャケを食べていたということだ。どうしてうちの戸棚には、シャケ缶ばかりあったのだろう。缶詰のラベルに描いてあるシャケの目は冷ややかで、とても話が通じる相手とは思えなかった。 湯本香樹実「ポプラの秋 (新潮文庫)」 シャケ缶がそんなにあるなんてお金持ちだ。シャケ缶はシャケのくせに高い。我が家ならサバ缶だった。 けれど、シャケ缶を眺める主人公の姿に自分を重ねてしまうのは、私もまた幼い日、お歳暮コーナーで母が手続きをしている間中、立派な鮭を眺めていたからだ。 もっと大きくなってからだってずっと、スーパーや百貨店の片隅のお歳暮コーナーで、あの巨大な鮭の見本をつついたりカタログに見とれたりしてきた。 でも新巻鮭が我が家に来たことはついぞなかった。そうして大人になってお歳暮と関わりの
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