文藝2023年冬季号掲載 書評 書評 - 文藝 『トップガン』にも描けない天才パイロットの物語 佐藤究・待望の新作を紹介 評者:マライ・メントライン(ライター) 2023.12.06 直木賞作家・佐藤究による最新作『幽玄F』が刊行。本作の魅力をドイツ出身で文筆や翻訳など幅広く活躍するマライ・メントラインさんが語る。 「幽玄F」 佐藤究 著 評:マライ・メントライン(ライター) 『幽玄F』は超面白い、そして困難な物語だ。 何が困難かといえば、現代ミリタリー系ネタと一般文芸の喰い合わせの悪さの問題。その典型がキャスリン・ビグロー監督の映画『ゼロ・ダーク・サーティ』のケースだ。かのウサマ・ビン・ラディン暗殺作戦のキーマンとなった主人公が、暗殺成功によって「歓喜どころか、ただ徒労感と闇の深さに沈む」という文芸的にみても素晴らしい映画だったが、その質の高さに見合った文化的成功を収めたとは言いがたい。