「そろそろ死のうかしらねえ」 ばあちゃんが言い出したのは帰省先でのことだった。お盆休みの午後4時半、ふたりでダイニングに座って、私はスマホで人生に関係なさそうな国際ニュースを、ばあちゃんはテレビで誰も発言の責任を取らなそうなワイドショーを見ているところだった。 私が「腎臓が生まれつき3個ある女性、1個を臓器提供へ」から「猫の寿命を2倍にする研究」に飛ぶリンクを踏んだところで、ばあちゃんが「そろそろ夕ご飯の支度しようかしらねえ」と言うような感じでぽつりと自死をほのめかしたものだから、私も思わずスマホを伏せてしまった。 「え、どうしたのばあちゃん」 「ほら、樋川さん今年で100歳でしょ。それまでには市役所に申請するって言ってるから、私も一緒に行ったほうがいいのかしら、って思うのよ」 「えーっ早はやない? ばあちゃんまだ97じゃん」 「でも、そう何度も出勤してもらったら、お医者さまにもご迷惑でし
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