京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi) 伊佐正 教授らは、ベルギー・ルーバンカトリック大学 Wim Vanduffel 教授のグループ、および生理学研究所ウィルスベクター開発室 小林憲太 准教授と共同で、霊長類の腹側被蓋野(VTA)から側坐核(NAc)への投射経路は動機付けに基づく意思決定には関与するものの、強化学習には必ずしも重要ではないことを明らかにしました。 VTAは辺縁系や大脳皮質へドーパミンを供給する脳部位として知られ、特にNAcへの投射経路は、動機付け行動や薬物依存などに関与する経路として注目されています。しかし、これまでは霊長類が経験に基づいて多様な選択肢から行動を決定していく過程で、この経路がどのように機能しているかは不明でした。 本研究では、2種類のウィルスベクターを組み合わせて特定の経路を一時的に遮断する方法を用いて、アカゲザルにおいてVTAからNAc
ヒトや動物が外界を感知するための主な感覚は古来「五感」と呼ばれ、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚が含まれます。その中でも触覚情報を神経活動に変換する仕組みは、実験が困難であったため不明な点が多く残されていました。今回、大阪大学大学院歯学研究科の古田貴寛講師らを中心とする共同研究チームは、ネズミのヒゲ感覚システムを対象とすることで詳細な触覚の実験を可能とし、触覚情報を神経活動に変換する際の神経終末受容器の役割分担について明らかにすることが出来ました。 ネズミのヒゲは非常に優れた触覚センサーで、ネズミはヒゲで周囲のものに触れることにより、真っ暗闇の中でも障害物を避けたり、進路を定めたりすることができます。ヒゲの根元(毛包)には、機械的な入力を神経活動に変換する末梢神経の終末受容器が整然と配置されており、これらは形態学的特徴によってタイプ分けされています。本研究では、ヒゲの感覚を運ぶ末梢神経の一本か
隣の芝生が青く見えるのはサルも同じ!サルも他者の得るものが気になる ―自己と他者の報酬情報が脳内で処理・統合されるメカニズムの一端を解明― ヒトの意思決定やモチベーションは、自己が得る報酬(金銭や社会的地位など)に加え、他者が得る報酬によっても左右されます。しかし、他者の報酬が脳内のどの細胞の、どの細胞同士のつながりの、どのような働きによって処理されるのか、その詳細は未だ明らかになっていません。自然科学研究機構生理学研究所の磯田昌岐教授と則武厚助教、二宮太平助教の研究グループは、自己と他者の報酬情報が、進化的に新しい脳領域である大脳新皮質の内側前頭前野細胞にて選択的に処理されることを発見しました。そしてそれらの情報は、進化的に古い脳領域である中脳のドーパミン細胞に送られ、そこで自己の報酬の主観的価値が計算されることを突き止めました。今回の成果は、ヒトを含む霊長類動物において、主観的な価値判
本成果は、名古屋大学大学院理学研究科の森郁恵教授らの研究グループと、神経機能素子研究部門の久保義弘教授らの研究グループの共同研究成果であり、9月5日に名古屋大学よりプレスリリースされました。 名古屋大学の青木一郎研究員と森郁恵教授らの研究グループは、久保研究グループと の共同研究によって、てんかんの原因となる遺伝子異常が、モデル動物である線虫C. elegansの学習速度に影響することを発見しました。久保研究グループは、電気生理 学的手法による機能解析を担当しました。 この研究成果は、平成30年8月24日付(日本時間19時)英国科学雑誌「Communications Biology」電子版に掲載されました。 ※詳細は下記リンクよりご覧ください。 <名古屋大学生命理学専攻HP内ページ> http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/topics/index_279.html
東海光学株式会社(本社:愛知県岡崎市、代表取締役社長 古澤 宏和)の鈴木雅也(脳科学推進室 室長)と自然科学研究機構 生理学研究所の柿木隆介教授らの共同研究グループは、青色光をカットするカラーレンズの防眩効果を脳反応から客観的に計測する手法を開発しました。本手法を用いることで、『より快適に使えるサングラスや遮光眼鏡注1)』、「まぶしさ」の個人特性を反映したレンズを提供する『ニューロテイラーメイド』などの開発に繋がることが期待されます。 本取り組みの一部は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(山川義徳PM)の支援を受け行われました(研究開発課題「ニューロテイラーメイド」、研究期間 2015.5~2019.3)。 本研究成果は、米国オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載されました(2018年8月2日)。 研究背景 網膜や視神経へ強い光を受けた際に痛みや不快感、視機能の低下などの伴うこともあ
私たちは日常生活の中で、コップから衣類に至るまでさまざまな物体に触れ、滑らかさや柔らかさといった素材の特徴を感じています。では素材の触感にはどのような脳内ネットワークが関わるのでしょうか?視覚や聴覚に比べて、物体を触って認識する脳内メカニズムについては、実は未だによく分かっていません。今回、生理学研究所の定藤規弘教授と名古屋大学のRajaei Nader研究員・大岡昌博教授、南洋理工大学シンガポールの北田亮准教授らの国際共同研究グループは、複数のワイヤからベルベット状の素材を感じる錯覚(ベルベット錯触)を応用して、素材の触知覚に関わる脳内ネットワークを同定しました。ベルベット錯触は、バーチャルリアリティ技術の開発に応用できる可能性があり、本研究成果はその技術開発の基盤となる知見を提供します。 研究の背景 私たちは日常生活においてさまざまな物体に触れています。絹やベルベットのような素材は滑ら
大脳皮質視覚野の神経細胞の同期的活動が発達するメカニズムを解明 ~生後の視覚体験が同じ機能を持つ神経細胞同士の同期を作り出す~ 私たち哺乳類の脳機能は、生まれ育った環境に適応しながら発達します。つまり脳機能の発達は、生後に経験するさまざまな体験や学習の度合いに依存していると言えます。今回、生理学研究所の石川理子助教と吉村由美子教授らの研究グループは、生後の視覚体験を操作したラットを対象に、大脳皮質一次視覚野の複数の神経細胞から視覚反応を記録し、その発達過程を詳細に調べました。 結果、視覚野の浅い層では、似た視覚刺激に対してよく応答をする神経細胞のペアでのみ、強い同期的な活動が生じることがわかりました。そしてこの同期活動が形作られるためには、生後の発達期に様々な「形」をみる視覚体験が必要であることがわかりました。 一方深い層では、それぞれの細胞の視覚反応性があまり似ていなくても同期活動し、こ
Chang Xu(中国科学院上海生命科学研究院・大学院生) Qian Li(中国科学院上海生命科学研究院・大学院生) Liu He(中国科学院上海生命科学研究院・大学院生) 辰本 将司(自然科学研究機構生命創成探究センター・特任研究員) Vita Stepanova(スコルコボ科学技術大学・大学院生) 大石 高生(京都大学霊長類研究所・准教授) 鵜殿 俊史(京都大学野生動物研究センター・特任研究員) 山口 勝司(自然科学研究機構基礎生物学研究所・技術職員) 重信 秀治(自然科学研究機構基礎生物学研究所・特任准教授) 柿田 明美(新潟大学脳研究所・副所長) 那波 宏之(新潟大学脳研究所・所長) Philipp Khaitovich(中国科学院上海生命科学研究院・教授,スコルコボ科学技術大学・教授) 郷 康広(自然科学研究機構生命創成探究センター・特任准教授,自然科学研究機構生理学研究所・特任
エサの匂いやフェロモンに応答するキンギョの嗅神経細胞を同定 ~キンギョは食事に4割、恋に1割の細胞を使う~ 視覚機能がよく発達したヒトと異なり、げっ歯類や魚類は嗅覚が著しく発達していることで知られ、匂いを用いてさまざまな情報伝達を行っていることが知られています。特に魚類では、成熟するに伴い体内で作られたホルモンが性フェロモンとして体外に放出され、異性がそれを鼻で感じ取ると成熟や性行動を促進することが以前より知られています。しかしこれまでの研究では、実際に性フェロモンが餌の匂いなどの他の匂いとどのように区別されるのか、わかっていませんでした。 今回、生理学研究所の佐藤幸治特任准教授とミネソタ大学の研究グループは、キンギョの嗅神経細胞*1に着目し、これまでに同定された匂いの全てである餌の匂い、社会性シグナル、性フェロモンのどれに反応するのか測定しました。結果、キンギョの嗅神経細胞全体のうちおよ
通常、痛みは身体に起きている危険を知らせる重要な感覚です。一方で、身体が危険な状態になくても持続して感じる痛みがあります。これは慢性疼痛と呼ばれる疾患で、治療法の確立には至っていません。慢性疼痛は末梢神経が傷つく等により中枢神経系の機能が変化し引き起されると考えられています。また、一部の慢性疼痛患者では、損傷していない方の四肢にも慢性疼痛(ミラーイメージペイン)を発症することが報告されています。しかし、これまでミラーイメージペインの発症メカニズムはほとんど分かっていませんでした。 最近、私たちのグループでは感覚の情報処理に重要な脳領域である一次体性感覚野(S1)で1)シナプスの形成や消失が増加(神経回路が変化)し慢性疼痛を起こすこと、2)この神経回路変化は脳の主要な細胞のひとつであるアストロサイトによって引起こされていることも明らかにしました。そこで、私たちは、ミラーイメージペインもS1の
研究成果は、欧州科学誌「EMBO Journal(エンボジャーナル)」電子版に 2018年1月18日(中央ヨーロッパ時間正午)掲載 (日本時間1月18日午後8時) 内容 名古屋市立大学大学院医学研究科の澤本和延教授(生理学研究所客員教授)と澤田雅人助教らは、名古屋市立大学大学院薬学研究科、生理学研究所、自治医科大学、米国シンシナティ子供病院の研究者と共同で、脳内を移動するニューロンが正しい位置で停止して成熟する新しいメカニズムを解明しました。 脳の中には様々な種類の神経細胞(ニューロン)が決まった位置に配置されて、高度な機能を持つ神経回路を作っています。脳の中で神経幹細胞からニューロンが生まれた後、未熟なまま長距離を移動していくことが知られています。しかし、ニューロンの配置のために重要な目的地での停止と成熟のしくみについては、不明な点が多く残されています。 本研究では、マウスを用いた実験に
手指は人体の中で最も器用な部位です。手指の器用な運動は、適切なタイミングで筋肉が協調して動くことによって成り立っています。このような運動の背景には、手指からの感覚情報を基にして運動の指令を生成し、筋肉を協調して収縮させていることが挙げられますが、巧みな運動時において脳内で行われている感覚情報と運動情報の働きについては不明な点が多く残されていました。本研究は、生理学研究所に設置されている脳磁図を用いて、手指の様々な運動時における脳活動を計測し、手指の運動をコントロールしている時の感覚情報の働きを調べました。 実験では、手指を用いて物体を器用に扱う運動時(手掌の上で2個のボールを時計回りに回転させる)や手指の単純な運動時(ボールを握るだけ)における脳活動を記録しました。運動時には身体部位の状態をモニタするために、筋肉や皮膚からの情報が神経を通して脳に伝わり処理されています。今回、我々が注目した
大脳皮質は他の脳領域と協調して働くために、多様な出力を作る必要があります。この出力を担っているのが、興奮性の錐体細胞です。私たちの研究グループはこれまでに、錐体細胞が軸索を伸ばす出力先ごとにタイプ分けができ、これら錐体細胞間の情報伝達の仕組みも違っていることを明らかにしてきました。では、大脳皮質の多様な出力はどのように組み合わされ、皮質外部へ伝わるのでしょうか。実は、大脳皮質には興奮性の錐体細胞の他に抑制性細胞と呼ばれる細胞があり、この抑制性細胞のもつ分子・形・電気などの性質によってグループ分けできることが、私たちのさらなる研究によって明らかになりました。 そこで今回私たちは、これらの抑制性細胞が多様な錐体細胞の出力の目的に応じてネットワークの仕方を変えているのではないかと考え、2種類の抑制性細胞グループ(FS細胞とLTS細胞)と2種類の錐体細胞グループ(両側線条体投射錐体細胞と橋核投射錐
食物に含まれる炭水化物、脂肪、蛋白質は、3大栄養素と呼ばれています。これらの栄養素は、体内での役割が異なるため、我々は食物を食べ分けることによって、これらの栄養素を必要に応じて食物から摂取します。しかし、動物が、どのようなメカニズムによって食物を選択し、摂取するかはほとんど分かっていません。 今回、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授と琉球⼤学第⼆内科(内分泌代謝・⾎液・膠原病内科学講座)の岡本士毅特命講師(元生理学研究所)は、「脂肪と炭水化物の食べ分け」を決定する神経細胞をマウスで発見しました。マウスは、脂肪を多く含む食物(脂肪食)を好んで摂食します。しかし、この神経細胞が活性化すると、脂肪よりも炭水化物を多く含む食物(炭水化物食)を摂取します。この神経細胞は、本能を司る古い脳「視床下部」に存在しており、絶食によって活性化し、炭水化物の摂食を促進します。その結果、絶食によって変化し
研究成果は、米国科学誌「Cell Stem Cell(セル・ステムセル)」電子版に 2017年12月21日正午(米国東部時間)掲載 (日本時間12月22日午前2時) 内容 周産期医療の進歩により新生児の生存率は劇的に改善しましたが、重篤な神経学的後遺症を高率に合併する、低酸素性虚血性脳症などの新生児脳障害は依然として毎年数千人程度発生しています。傷害で失われた神経細胞(ニューロン)を再生させる治療法は未だ無いのが現状であり、新たな治療法の開発が望まれています。 この度、名古屋市立大学大学院医学研究科の 澤本和延教授(再生医学)(自然科学研究機構生理学研究所 客員教授)と、神農英雄研究員(新生児・小児医学)らは、東京医科歯科大学やスペイン・バレンシア大学などとの共同研究により、マウスを用いた実験で、新生児期のみに存在する脳障害後の神経再生メカニズムを世界で初めて発見しました。 「放射状グリア
統合失調症および知的障害のモデル"Schnurri-2ノックアウトマウス"は、脳の海馬歯状回における未成熟な形態学的特徴を示す 統合失調症および知的障害の病因として、脳の樹状突起棘(スパイン)およびミトコンドリアの構造変化が指摘されています。また、本研究グループでは、Schnurri-2(Shn2)というタンパク質を欠損したマウスが、統合失調症および知的障害の症状を示すことを提案しています。しかし、Shn2ノックアウト(KO)マウスにおける樹状突起棘のような細胞内構造の変化は未だわかっていません。 本研究では、Shn2 KOマウスの脳海馬歯状回顆粒細胞における細胞内構造の3次元形態解析を、連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を使って行いました。 Shn2 KOマウスでは、スパインの長さの増加および直径の減少からなる未成熟樹状突起の形態が見られました(図1)。また、核の体積およ
私たちの目から入ってくる情報は、見ている本人が実際に「見えている」と認識しなくても、常に脳に送り込まれ続けています。その証拠として、視覚野が損傷した患者さんが、実際には物体を視覚的に認知していないのにも関わらず、その「見えていない」はずの物体に対して何らかの反応をする「盲視」という現象があることが分かってきました(図1)。 これまで吉田助教らの研究グループは、脳の視覚野に障害をもったサルが、実際には「見えていない」はずの光に対して正しく目を向けることができることを証明しました。さらに、実際に「見えていない」はずの光の位置をサルが正確に当てることができることも発見しました。このような盲視の能力は、もともとヒト特有の能力と思われていましたが、これらの成果はサルでも同じ能力があることを示した世界でも初めての研究成果です。ではこの盲視の能力は、より促進させることができるのでしょうか。この疑問に答え
このたび、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授、三村將教授、公益財団法人東京都医学総合研究所の夏堀晃世主席研究員、大学共同利用機関法人自然科学研究機構 生理学研究所の小林憲太准教授らの共同研究グループは、マウスを用いた実験で、目標に向かって行動を開始するためには、腹側線条体(注1)と呼ばれる脳領域の外側部位に存在する「やる気ニューロン」の活動増加に加え、内側部位に存在する「移り気ニューロン」の活動低下が必要であることを見出しました。 研究グループでは、これまでの研究で、マウスを用いた実験により、意欲障害となる脳内の部位を特定し、「やる気スイッチ」の存在を発見しています。また、目標に向かって行動する時には、腹側線条体と呼ばれる脳領域のうち外側部位に存在する神経細胞(やる気ニューロン)を活動させることが必要であり、この「やる気ニューロン」の機能異常によって、行動の開始が障害され
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