土の匂いと草の匂い、それらが一緒くたになった匂いがしていた。 私はその匂いが嫌いだった。 そして夏の始まりを感じさせるこの気候が。 私よりも年下の若者たちが、異性に対して無防備になる季節がやってくる事を感じさせるこの気候が、それと相まって私を憂鬱にさせた。 「あつい、あつい」 彼女はまわらぬ舌でその言葉を繰り返している。 意味はわかっているのだろうか。 「ママは?」 大人の注意をひくためのような、かわいらしい声で彼女は私にたずねる。 知るか。馬鹿め。 「かわいいでしょう?」 手洗いから戻ってきた彼女の母親が私にたずねる。 まるで自分自身に言い聞かせているようだった。 私は半ば呆れたように女を見た。 しかし、その目元に刻まれた細いしわに苦渋の色を感じ取った私は、たまらず目を逸らした。