物心ついたころには、もう弟が生まれていて、私は「おにいちゃん」と呼ばれていた。 弟は名前で呼ばれる。 しかし私はお兄ちゃんと呼ばれた。 母から、祖母から、父から、祖父から。 家庭の中で名前で呼ばれることはなかった。 私の名前を言いつけていないので、私を他人に紹介するときに弟の名前で紹介してしまうほどだ。 弟が生まれて20年以上経った今ですら。 一樹と大輝、のように韻を踏んだ名前であるのも混同の原因ではあるのだが。 学校では、家の名前で呼ばれるのが普通だった。同じ名字の者は居なかったから、当然とも言える。 でも、お兄ちゃんと呼ばれないことが、今考えると嬉しかった。私の名字は私自身を示す記号だったから。 部活で部長をやっていたけど、部長と呼ばれるのは少し嫌いだった。厄介ごとが起こる徴でもあったし。 役割で呼ばれると、義務を負っていることを否応もなく思い出させてくれる。 兄であれ。長男であれ。気