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ブックマーク / www.nikkei-science.com (37)

  • P対NP問題と知の限界

    答えを見つけるのは難しいかもしれないが答えがあっているかどうかは素早くチェックできる問題(ジグソーパズルのような問題)のことをNP問題,簡単に素早く解ける問題のことをP問題という。「素早く解けるP問題はすべて,答えを素早く確認できるNP問題である」ことが証明されているが,その逆はどうだろうか。つまり「答えを素早く確認できるNP問題はすべて,素早く解けるか?」──これが「P対NP問題」だ。 直観的には両者は異なると思われ,多くの数学者もP≠NPだと信じてはいるが,まだ誰も証明できていない。もし両者に質的な差がないとすると,コンピューターはすべてのP問題を効率的に解けるので,NP問題も同様に解けることになり,コンピューターで計算できる限界が一挙に広がる。 逆にP≠NPであれば,コンピューターにできることはもちろん,知りうることに基的な限界があることになる。知りうる知識に限界が課せられている

    P対NP問題と知の限界
  • 信頼のホルモン オキシトシン

    人間どうしが社会的にうまく機能するには,信頼が不可欠だ。しかし,新たに知り合った人を信頼すべきかどうか,私たちはどのようにして決めているのだろうか? 脳で作られるオキシトシンという神経伝達物質が信頼を築くうえで重要な働きをしていることが,「信頼ゲーム」という実験によってわかった。オキシトシンの機能や他の重要な脳内物質との相互作用をさらに研究すると,自閉症など社会的相互作用の不全を特徴とするいろいろな疾患について多くのことがわかってくるだろう。 オキシトシンはたった9個のアミノ酸からできたペプチド(小さなタンパク質分子)で,信号を伝える神経伝達物質として働いている。また血中に漏れ出して脳と離れた組織にも影響を及ぼすので,ホルモンでもある。オキシトシンが果たす役割としては,授乳期の女性に母乳の分泌を促すことと,陣痛の誘発が最もよく知られている。その他の微妙な効果は検出しにくかったが,動物を対象

    信頼のホルモン オキシトシン
  • フロレス原人の謎 人類はアジアにいつ来たのか

    2003年,インドネシアのフローレス島にある洞窟から,驚くべき化石が見つかった。1万8000年前の成人女性のほぼ全身の骨格だ。際立った特徴はそのサイズで,身長は1mほど。脳の大きさも現代人の1/3程度で,チンパンジーと大差ない。発掘した研究チームは,この化石を新種の人類として「ホモ・フロレシエンシス(フロレス原人)」と名付け,ホモ・エレクトスの子孫であるとした。ホモ・エレクトスは,私たちの祖先でもある化石人類で,身体つきは現生人類に似ている。 フロレス原人が発表されたばかりのころは,これは新種の人類ではなく,私たちと同じホモ・サピエンスで,何らかの病気で身体や脳が成長しなかっただけだと主張する研究者もいた。同じ地層からは,狩猟や獲物の解体に使われたと思われる石器も多数見つかっており,獲物となった小型のゾウの骨や火で調理した痕跡もあった。チンパンジー並みの脳サイズの生き物としては,あまりに高

    フロレス原人の謎 人類はアジアにいつ来たのか
  • Qビズム 量子力学の新解釈

    量子力学は非常に成功した理論ではあるが,奇妙なパラドックスに満ちている。量子ベイズ主義(Qビズム)という最近発展したモデルは,量子論と確率論を結びつけることで,そうしたパラドックスを解消,あるいはより小さな問題にしようとする。Qビズムは量子的パラドックスの核心をなす「波動関数」を新たな概念でとらえ直す。一般に波動関数は粒子がある性質(例えばある特定の場所に存在すること)を示す確率を計算するために用いられるが,波動関数を実在とみなすと様々なパラドックスが生じてくる。Qビズムによれば,波動関数は,対象の量子系がある特定の性質を示すはずだとの個人的な「信念の度合い」を観測者が割り当てるために用いる数学的な道具にすぎない。この考え方では,波動関数は世界に実在するのではなく,個人の主観的な心の状態を反映しているだけだ。 翻訳は慶応義塾大学大学院/日学術振興会特別研究員の杉尾一さん,監修は芝浦工業大

    Qビズム 量子力学の新解釈
  • 地下攻撃核ミサイルに異議あり

    米軍の潜在敵国は1991年に勃発した湾岸戦争から重要な教訓を学んだ。当時,イラクの軍事施設はスマート爆弾によってピンポイント爆撃され,地上にある軍事施設は米軍の空爆に対して極めて脆弱だった。爆撃から生き残るには基地や武器貯蔵庫を強化コンクリートで作られた地下バンカーか,もしくは硬い岩山の内部に設置しなければならない。 この戦争の後,米国の軍事戦略家は地中深くに隠蔽された堅牢な攻撃目標を破壊する方法について検討を進めていた。彼らは,地下バンカーや地下武器貯蔵庫への攻撃を成功させるのが難しいことを十分に認識していたようだ。さらに恐ろしいことは,地下爆撃によって,地中に隠蔽された化学剤や生物剤を迂闊にも周辺地域に撒き散らしてしまい,致命的な結果を招きかねないという問題だ。 国防戦略家が検討した1つの解決策は,爆発力を抑えた地中貫通型の核弾頭を配備することだ。この特殊弾頭は地中に貫通した後に爆発す

    地下攻撃核ミサイルに異議あり
  • 局地核戦争でも人類は滅亡|日経サイエンス

    米国とソ連の間で核戦争が起こると「核の冬」が生じうることを25年前,複数の国際科学チームが示した。都市と工業地域に落とされた爆弾で大火災が生じ,その煙が地球を包み込んで日光を吸収,地表は温度が下がり暗く乾燥して,世界中の植物が枯れ,物供給が絶たれるだろう。地表の温度は夏場でも冬の値に下がる。この予測は2つの超大国の指導者に米ソの軍拡競争が当事国だけでなく全人類を脅かす可能性を突き付け,核軍拡競争を終わらせる重要な要因となった。 冷戦が終わったいま,なぜこの話題を取り上げるのか? 他の国々が依然として核兵器を保有・取得しようとするなか,より小規模な局地核戦争でも同様の世界的破局が起こりうるからだ。新たな解析の結果,例えばインドとパキスタンの衝突によって100発の核爆弾(世界に2万5000発以上ある核弾頭のわずか0.4%)が都市と工業地域に落とされると,世界の農業を麻痺させるに十分な煙が生じ

    局地核戦争でも人類は滅亡|日経サイエンス
    SuperAlloyZZ
    SuperAlloyZZ 2013/04/21
    冷戦は終わっても人類滅亡の危機は去っていない、いやむしろ危険はおおいに増した。(日本を含む)小国が大人に玩具の銃をねだる子供のように駄核兵器を欲しがる限り、我々に安眠の夜は来ない。
  • 自己組織化する視覚チップ

    1997年,チェスの世界チャンピオン,カスパロフとIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」が対決し,僅差ではあったもののディープブルーが勝利した。しかし,これは腕力に頼った勝利だった。ディープブルーは1秒間に2億通りもの駒の動きを評価できるが,生身のカスパロフはたかだか3通りまでなのだ。 チェスではディープブルーが勝利したが,視覚・聴覚・パターン認識・学習といった分野になるとコンピューターの能力は人間の脳に到底及ばない。人間なら遠くにいる人の歩き方を見ただけで知り合いかどうかがわかるが,コンピューターにはそうした芸当はできない。また,動作効率は比較にも値しない。スーパーコンピューターは一部屋を占領するほどの大きさだが,神経組織の塊である脳はメロンほどの大きさだ。重さで比べればおよそ1000倍,大きさなら1万倍,消費エネルギーでは数百万倍の開きがある。 脳の“素子”であるニューロンは

    自己組織化する視覚チップ
  • プラズマの波に乗れ 卓上加速器

    加速器は宇宙の深遠な謎を解くのに用いられている巨大な実験装置だ。荷電粒子を光速近くの猛スピードに加速して衝突させ,宇宙がビッグバンによって誕生した際の激動の状況を再現する。残念なことに,この宇宙創生の謎に肉薄しようとすればするほど,より強力な加速器が必要になり,膨大な費用がかかる。その基設計は数十年前から相変わらずで,装置は非常にかさばる。 しかし,近い将来,プラズマと呼ぶ物質の第4の状態(固体,液体,気体に次ぐ)を利用した新しい粒子加速の方法が,エネルギー1000億電子ボルト(100GeV)以上の強力な加速器を実現する有望なアプローチとして登場し,加速器のサイズとコストを劇的に削減するだろう。 物理学の研究に使われる巨大な加速器だけではない。物質科学や構造生物学,核医学,核融合研究,料の殺菌,放射性廃棄物の核種変換,ある種のガンの治療などには,やや小型の加速器が使われているが,それで

    プラズマの波に乗れ 卓上加速器
  • 極超新星

    夜空に突如として明るく輝く星が出現することがある。太陽質量の20倍程度の星の最期である超新星爆発の輝きだ。ただ太陽質量の100倍を超えるような超大質量星は超新星爆発をせず,ガスを吹き出して次第にしぼんでいくだろうと考えられてきた。ところが近年,超新星爆発を起こした星のいくつかが超大質量星だったことが観測で明らかになった。それらは遠くにあるせいで目立たなかったが,従来観測されてきた超新星よりもはるかにまばゆく輝き,しかも輝きが長期間持続する。こうした「極超新星」の爆発では,その超大質量星の中心で粒子と反粒子の対生成が起き,それが引き金となって爆発的な核反応が起きている可能性がある。 再録:別冊日経サイエンス200「系外惑星と銀河」 著者Avishay Gal-Yam 2004年にイスラエルのテルアビブ大学で天体物理学のPh.D. を取得後,カリフォルニア工科大学でハッブル・ポストドクトラルフ

    極超新星
  • 超白色レーザー

    レーザー光は特定波長のシャープな光だ。半導体やガス,液体などさまざまな物質から発生させられるが,ほとんどの場合,ある決まった波長のレーザー光しか出ない。それが今,七色の虹のようにさまざまな波長のレーザー光を一気に発生できる技術が実用化の段階を迎えようとしている。 これらのレーザー光を合わせると白い光になる。太陽光や蛍光灯の白色光と似ているようにも見えるが,まったく違う。通信や計測,医療などさまざまな分野に革新をもたらす,まったく新たな「超白色」の光源になる。 超白色レーザーの誕生は意外に古く1969年。緑色の高強度レーザー光を特殊な結晶に通したとき,それが劇的に白色に変化した。レーザー光が結晶を通るうちに「非線形効果」という現象によって,さまざまな波長の光が生み出された結果だった。光学結晶のほか光ファイバーなどでも超白色レーザーをつくることができ,より効率よく簡単に生み出せるようになった。

    超白色レーザー
  • 光干渉計で星の素顔を探る

    約20年前,ハジアン少年は父の双眼鏡を持ち出し,夜中に家の外に忍び出た。その天文学者の卵は空に見える星を回っている惑星に遊び友達を探そうと思った。残念なことに,その双眼鏡では空の様子は全然変わらず,肉眼で瞬く光の点に見えるのと同じように点に見えた。最も巨大な恒星は私たちの太陽系をその光球の中に飲み込んでしまうほど大きいが,太陽を除くすべての星はあまりに遠すぎて双眼鏡では大きさも分からない。 20年経った今,ハジアンは少なくとも最も明るい星のいくつかを,光の点ではなく丸い形状(円盤)として見ることができるようになった。このように星を鮮明に見えるようにするのには,130年以上前に提案された干渉計という技術手法を使っている。この手法を使う場合,双眼鏡や普通の望遠鏡をのぞく代わりに,光干渉計と呼ばれる装置につながったコンピューター画面を見なければならない。過去半世紀以上の間,電波を使った干渉計は見

    光干渉計で星の素顔を探る
  • ナノマシンで実現する超高密度メモリー

    IBMはナノテクノロジーを駆使して機械式の高密度メモリーを開発した。2005年にも切手大のメモリーカードとして実用化する。将来は既存の半導体メモリーや光ディスクなどに代わって普及するだろう。もっとも,初の「ナノマシン」の開発は想像以上に困難だった。 IBMの社内ではこのメモリーを「ミリピード」(Millipede;ヤスデの意味)と呼んでいる。原子間力顕微鏡(AFM)の原理を応用したもので,小さなカンチレバー(片持ち梁)を縦横に並べ,これらを使って高分子材料でできた媒体にデータを書き込む。カンチレバーの先端についた針が媒体に小さなくぼみを付けると「1」を記録。くぼみがない場合は「0」を表す。多数のカンチレバーが並列動作する様子をヤスデの足になぞらえた。「ナノドライブ」といってもいい。 著者たちはIBMチューリヒ研究所に属する科学者。1990年代前半にIBMが経営難に直面し,研究活動が縮小され

    ナノマシンで実現する超高密度メモリー
  • 工学が明かす身体の巧妙さ

    「なぜヒューマノイドを研究するのか」。欧米の研究者や一般の人からこんな質問を受けることが多い。こんなとき私は決まって次のように答える。 ヒューマノイドを通して人間を解明するのが目的だ。人間の身体構造は非常に複雑にできており,これだけの機構を機械システムで実現しようとするのは並大抵の技術では不可能だ。しかし,全体は無理でも部分的に人間と同じ構造や機能を実現できれば,ロボット工学の視点から人間を科学的に解明することになる。 これはロボット研究者のほとんどが抱いている思いだ。 そんな研究を続ける中で痛感するのが,人間の身体の巧妙さだ。例えば,自由度の数の多さがある。二足歩行できるヒューマノイドはひざが常に曲がった格好で歩く。人間がひざを曲げたままの姿勢でいるのはつらいし,ロボットでもエネルギー消費の観点からは非効率だ。それでもこんな姿勢をとる理由は,腰の位置を一定にして安定させるとともに,“特異

    工学が明かす身体の巧妙さ
  • 動き始めた人工筋肉

    電気に反応して変形する電場応答性高分子(EAP:Electroactive Polymer)が注目を集めている。近年になって,応答性に優れた材料が登場した。モーターに代わる動力源に実用化しそうだ。 電気によって長さや体積が大きく変化し,しかも軽い物質があれば,まったく新しいアクチュエーター(動力を生み出す装置)ができる。広く利用されている電気モーターは大きくて重いが,新アクチュエーターはモーターに代わるだけでなく,より小型の装置にも利用できる可能性がある。 この分野では,カリフォルニア州にあるSRIインターナショナルの研究が有望視されている。誘電エラストマーと呼ぶタイプの高分子について,アクチュエーターとして使える性能を達成した。 誘電エラストマーを強い電場の中に置くと,電場の方向に収縮し,電場と垂直な方向には膨張する。この変形力は「マクスウェル応力」と呼ばれている。新型アクチュエーターは

    動き始めた人工筋肉
  • プラスチック冷却器〜日経サイエンス2009年1月号より

    電場によって大きな温度変化を起こす材料が見つかった そこが台所であれパソコンのなかであれ,冷蔵庫などの冷却器は一般にかさばり,うるさく,電力をう場合が多い。これに対しペンシルベニア州立大学のチームは最近,ある種のプラスチックに加えていた電圧を切ると温度が大きく下がることを発見した。12℃も冷える。この“ソリッドステート冷却技術”が実用化すれば,集積回路基板などの除熱が静かで効率的になり,コンピューターの小型化と高速化が進むだろう。 1桁上を行く効果 外部から加えていた電場を取り除くと温度が下がる「電熱物質」の存在は古くから知られてきたが,温度低下幅が小さすぎて実用に耐えないか,冷却現象が起こる温度域が高すぎて使えなかった。例えば半導体チップの冷却には,通常の動作状態の温度(約85℃)から少なくとも10℃は下げる必要があると,電子産業の市場調査会社VLSIリサーチ(カリフォルニア州サンタク

    プラスチック冷却器〜日経サイエンス2009年1月号より
  • 計算する時空 量子情報科学から見た宇宙

    「コンピューターとブラックホールの違いはなんだろう?まるでジョークみたいだが,これは今日の物理学における最も深遠な問題の1つなのだ」 こんな風に記事は始まる。そしてつい最近まで,この答えは「コンピューターは結果を出力するが,ブラックホールは出力しない」というものだった。 最新の量子情報理論によれば,半導体のチップだけでなく,あらゆる物体が計算している。石ころも,人間も,水爆も,宇宙も──。物体はそれ自身を構成する基粒子の位置と速度によって情報を記録し,粒子が相互作用するたびにその情報を書き変える。時間がたつにつれて物体が変化するというのは,その物体が自らの構造を計算するプロセスだ。物体は何でもコンピューターなのだ。 だがもしそうだとしても,ブラックホールだけは例外だと思われていた。ブラックホールに落ち込んだ物体は2度と戻ってこず,結果が出力されないからだ。車椅子の物理学者ホーキングは70

    計算する時空 量子情報科学から見た宇宙
  • 量子テレポーテーション

    光の粒子(光子)がもっている情報を遠く離れた場所に瞬時に伝送できることが,実験で裏付けられた。この方法は「量子テレポーテーション」と呼ばれ,SF小説でおなじみの“瞬間移動”も単純な原子や分子なら夢ではない。この原理を超高速通信や量子コンピューターに応用する展望も開けてきた。 アインシュタインの相対性理論では,光の速度より速く情報を伝送することはできない。また「不確定性原理」と呼ぶ量子力学の法則により,粒子の状態を完全にコピーすることもできない。しかし,量子テレポーテーションは相対性理論や不確定性原理に反することなく,光子の状態に関する情報を瞬時に遠くまで伝送できる。 著者らのチームは,量子力学の基的な性質の1つである「量子もつれ」と呼ぶ現象を巧みに使って,光子の情報を瞬時に伝送する実験に成功した。2個の光子が量子もつれになっていると,偏光(電磁波の振動の向き)が常に一致する。この光子対の

    量子テレポーテーション
  • チップ上に実現したボース・アインシュタイン凝縮体

    極微の世界で起こる量子力学の奇妙な現象を,より大きな世界で引き起こすことが可能になってきた。物質の波動性をはっきりと見せてくれるボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)が代表例だ。数十万個の原子が同一の量子状態となって凝集したもので,1995年に実際に作り出された。 しかし,BECの生成は一筋縄ではいかない作業だ。古典的な原子気体が凝縮体へと相転移を起こす温度は非常に低く,通常は100万分の1K以下だ。原子を真空容器に入れて隔離し,磁場によって空中に浮遊させて冷やす必要がある。従来の実験では,強い磁場を発生する大きな電磁石を真空容器の周りに並べるのが常だった。 これに対し,マイクロチップが作り出す磁場を利用する新しい方法が登場した。コンピューターに使われているような半導体チップの表面には複雑な微細配線が縦横に走っている。これらの配線に電流が流れると,磁場が生まれる。チップから離れた場所では

    チップ上に実現したボース・アインシュタイン凝縮体
  • イオンで作る量子コンピューター

    超弩級の能力を持つと期待される量子コンピューター。原子や光子,人工の微細構造にデータを保存して処理する設計が考えられている。最も進んでいるのが捕捉イオンを操る研究だ。イオンにデータを蓄え,他のイオンに転送できるようになっている。開発を阻む原理的な障害はない。 私たちが行っている捕捉イオン実験では,電気的に浮揚させた個々のイオンが小さな棒磁石のように振る舞う。各々の棒磁石の方向(上向きと下向き)が量子ビットの1と0に対応する。レーザー冷却(原子に光子を散乱させることで原子の運動エネルギーを奪う方法)によって,捕捉トラップ内のイオンをほぼ静止させる。 これらのイオンは真空容器中にあるので周囲の環境からは分離されているが,イオンどうしの電気的反発による強い相互作用を利用して「量子もつれ」を作り出すことができる。量子もつれは個々の量子ビットの観測結果が相関し合う現象で,粒子の間を結ぶ“見えない配線

    イオンで作る量子コンピューター
  • 多世界から生まれた計算機

    現在のスーパーコンピューターをもってしても何億年もかかる計算を一瞬のうちに解いてしまうとされる「量子コンピューター」。世界の先進的な大学や企業が研究にしのぎを削る注目分野だ。 量子コンピューターは「ミクロ世界で生じる状態の重ね合わせを利用して計算するから速いのだ」と,一般には説明されている。しかし,基礎理論を構築した英国の物理学者ドイチュ(David Deutsch)にいわせると,量子コンピューターは「多数の並行宇宙を使って計算する計算機」だ。「その能力の源泉は,膨大な数の並行宇宙で計算を分担する点にある」。この言葉からもわかるように,エヴェレットの多世界解釈なしにはドイチュの発想もなかったといえる。 現在のコンピューターのプロセッサーをいかに高速化してたくさんつなげても,量子コンピューターにはならない。「計算する」ということそのものを,現在のコンピューターとはまるで違う視点からとらえたユ

    多世界から生まれた計算機