ブックマーク / ameblo.jp/soulaspirit (1)

  • 『小説の種・「優しい鎮魂歌は歌えない」』

    分厚い壁の向こうで、少女はスケッチブックに何か文字を書いていた。 その表情はどこか疲れた印象を与える種のもので、肩は静かに震えている。 どこかで獣の叫び声のような雄たけびが聞こえた。能澄だと確信する。 彼女にその声が聞こえたのか分からないが、さして気にしたそぶりも見せずに スケッチブックをガラス越しに向けた。何か文字が書いているのを認識した。 かすんでいく意識の中で俺はその文字に注目する。 腹部に受けた傷は思ったより深いようだ。血は止まる前兆も見せない。 それでも、彼女のメッセージが気になった。 なぜ逃げずにココに止まる。即刻逃げるべきだ。ソコは当然の判断で、 誰にも咎められない。 誰にも言及されない。 誰にも叫弾されない。 すでに炎は研究所のあらゆる秩序を完膚なきまでに破壊し、 昨日まで当たり前の日常の舞台だった空間を狂気に染めた。 まだココまで火災は侵攻してきてはいないが、時間の問題。

    『小説の種・「優しい鎮魂歌は歌えない」』
  • 1