男性は、自分の性を、自分の身体感覚を通して、自分の言葉で直接語るための語彙や文化を持っていない。それゆえに、女性の身体の評価や採点、支配や売春を通して、間接的に自らの性を語ることしかできない。(『男子の貞操』p.9) 坂爪真吾『男子の貞操 ――僕らの性は、僕らが語る』は、上記のような問題に真っ向から立ち向かう評論です。このような問題意識は、現代において性や愛を考える上で極めて重要であり、この問題を明確に打ち出したという点だけで、この本は充分に評価できるものでしょう。 ところが一方で、この本はある重大な欠点を抱えてもいます。 それは、人間関係を築く上でセックスを特権化している、という点です。 坂爪氏は、「現代の社会でなぜ童貞が問題視されるのか、なぜ童貞であるということについて悩む人が多数いるのか」という問いを立てます。それに対する坂爪氏の回答は、「セックスへの動機付けそのものが無い」というも