『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)と題したエッセーが、発売から5カ月近く、じわじわと読者の数を伸ばしている。著者は日本近現代文学が専門の二松学舎大准教授、荒井裕樹さん(41)。要約などし得ない、一人ひとりの人生のひだから紡がれる「言葉の力」を照らす。一冊に込めた思いを聞いた。 荒井さんは障害者やハンセン病患者、女性らマイノリティーの自己表現を研究してきた。『障害者差別を問いなおす』など7冊の単著があるが、エッセーは初めて。 執筆の出発点は、近年ますます日本社会をむしばむ「言葉の壊れ」への危機感にあったという。SNS上などで社会的に弱い立場の人に向けられる憎悪。重みと責任を失った政治家の発言。そんな息苦しい言葉があふれる時代に、「悔しさ」を感じていた。 言葉には本来、もっと力があるはずなのだ。魂や尊厳や優しさにまつわるような。でも短くきれいにまとめようとすると、スルリと落ちてしまうものが