はじめに 本稿の課題は、経験的研究における1つの有用な視点、方法論として、ナラティヴ・アプローチ(narrative approach)について検討することである。特にここでは、(スピリチュアリティを含む広義の)宗教現象を考察の対象として取り上げるが、だからといって、その射程は宗教研究にとどまるものではない。より広く、個人と集団の「経験」(experience)を問うという視点から、社会学における経験的研究にナラティヴ・アプローチを適用する可能性を論じていくことを目的とする。 1.近年の日本社会学におけるナラティヴ・アプローチの位置 (1) 質的研究の再評価と社会構築主義 特に1990年代以降、質的研究(qualitative research)に関する欧米圏の社会学関係の著作が次々と翻訳されており、また並行して、日本の研究者による著作も数多く出版されている1。こうした流れの背景には様々な