トムヤムクンの偉功を前にして霞んでしまいがちだけれど、トムヤムガイも隅に置けない実力派である。 「クン」が海老ならば、「ガイ」は鶏肉だ。私にとってはクンよりガイのほうが馴染みが深い。というのも現地でもやはり、海老より鶏肉のほうが懐に優しいのだ。 バンコク市内にあるショッピングセンターの周りでは屋台がひしめき合っていて、夜になると大した盛況ぶりである。そこで出会ったのがイサーン出身の青年が経営する屋台だった。タイ北東部のイサーン料理は辛くてうまいと評判だ。英語はまったく通じず、周りの屋台仲間が通訳をかってでてくれて、あれこれしてようやく注文できたのがトムヤムガイだった。 食べる前から、うまいのがわかった。これ以上ないくらいの鮮烈な香りを胸一杯に吸い込んだら生唾がでてきた。赤唐辛子は種がむき出しで、ざっと数えただけで10個以上は入ってるから、その透明なスープの辛さには遊びがない。鶏肉以上にハー