3.カタストロフィーからカオスまで 70年代のカタストロフィー・ブーム 私がアメリカに留学した頃(1973年)の日本は、カタストロフィーがブームでした。カタストロフィーは、フランスの数学者で1958年のフィールズ賞の受賞者であるルネ・トムが発表した理論です。力学系(すなわち微分方程式と解曲面の幾何学)における、特異点(すなわち、不動点、周期軌道もしくは微分方程式が定義されない点など、周囲と様相の異なる点)の構造安定性の研究です。パラメーターが変化するとき、特異点の数や周りの状況が変わらないことを構造安定性とよびます。構造安定性の分析は、社会科学、生物などを含む諸分野での不連続な変化を説明するために応用できると期待されたのです。トムが、カタストロフィーを発表して間もない1966年に来日し、そして国際会議に出席するために1973年に再度来日したこともあり、当時の日本は雑誌、テレビも含め何だか世