『滅びゆく民家』より抜粋 民家はいずれは滅びさるものである。住まいが生活のうつわである以上、人の生活が変われば。それにともなって住まいも変容していくのは当然のことである。 ―(略)― わが国の美しい民家がつぎつぎと姿を消してゆくのを見ると、まことに愛惜の情にたえぬものがあるが、これは何びとの力をもってしても防ぎきれるものではない。 ―(略)― 古民家を復原修理して保存しようとする運動もある。 ―(略)― しかしそれは譬えてみれば、瀕死の病人をカンフル注射で、いくらかの延命を図るようなもの、あるいは死んだ珍獣を剥製にして保存しようとする行為にはなはだよく似ているように思えるのである。形骸を保存することはできても、そこで行われていた生活まで甦らすことはできない。現存する建物の保存に併行して、文書による記録の重要性がそこにあると考えられる。 民家研究の一方法として、悉皆調査というのがあった。これ