史上初めて、火星の平原からヘリコプターが飛び立った。米国時間4月19日、NASAの小型ヘリコプター「インジェニュイティ」は、地面から約3メートル上昇し、ホバリングした後、赤いほこりを巻き上げながらゆっくりと着陸した。飛行時間は約40秒だったが、技術的には非常に大胆かつ画期的な成功となった。 「多くの人が火星で飛ぶことは不可能だと思っていました」と NASAジェット推進研究所(JPL)のインジェニュイティ・プロジェクト・マネージャーを務めるミミ・アウン氏は言う。「大気がとても薄いのです」
赤毛のダイアウルフ(Canis dirus)とタイリクオオカミ(Canis lupus)の対決。アーティストのマウリシオ・アントン氏が研究者の意見を聞いて2020年に描いた。ダイアウルフはドール(アカオオカミ)やアビシニアジャッカル(エチオピアオオカミ)と遺伝的に近いと示唆する研究を受け、これまで考えられていたより毛を赤くした。(ILLUSTRATION BY MAURICIO ANTON) ダイアウルフ(Canis dirus)は、今からおよそ1万3000年前に絶滅したイヌ科の動物。体重は約70キロと、現在のタイリクオオカミ(Canis lupus)より大きく、南北アメリカ大陸の広い範囲に生息し、氷河期のウマや巨大ナマケモノなど絶滅した動物たちを捕食していた。 しかし、謎は数多く残っている。ダイアウルフはどこから来たのか? 現代のオオカミとどれくらい似ていたのか? 何十万年も生き延びた末
スペースXの「ファルコンヘビー」ロケット。強力なこのロケットは、2019年に初めて商用貨物を宇宙に打ち上げることに成功した。ファルコン9ロケットのコア3基とマーリンエンジン27基から構成され、航空機約1万8747機分の推力を発生させる。(PHOTOGRAPH BY SPACEX) 米国時間の11月15日(日本時間11月16日午前9時27分)、米スペースX社は民間として最初の運用ミッションとなる宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功した。スペースシャトルの退役から9年、NASAは宇宙飛行士を送り出すのにずっとロシアの宇宙船に頼らざるをえなかったが、いよいよこの状況に終止符を打つことになる。 誰も想像していなかった 起業家のイーロン・マスク氏が2002年に設立したスペースXが、太平洋のマーシャル諸島にあるオメレク島で最初のロケットの打ち上げに挑んだのは2006年のことだった。しかし、米空軍士
検査で把握できる感染者数は氷山の一角で、見えていないところにものすごい数の感染者がいる。それが、桁が違うほどかもしれないというのは十分ありうる。これは、日本のみならず、世界各国でそうだ。 だから、確定診断がついた患者数で一喜一憂するのではなく、背後にある真の感染者数や、人口の中の有病割合(世間では「感染率」などとよく呼ばれる)を知りたいというモチベーションが生まれる。世界各国の公表データから、それを推測した論文があるので、紹介する。 「ゲッチンゲン大学のフォルマー教授が4月2日に発表した世界の感染者検出率です(※1)。仮定は単純で、まず、インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームが3月30日に発表した論文(※2)に掲載されている年齢別の感染致命割合(IFR)が世界中のどこでも正しいとして、各国の年齢別人口を国連のデータベースから得て、それで重み付けした各国別の感染致命割合(IFR)を計算しま
2018年2月、ケネディ宇宙センターから打ち上げられるスペースX社のロケット「ファルコン9」。(PHOTOGRAPHY BY JOHN RAOUX, AP) ここ数週間、米スペースX社CEOのイーロン・マスク氏は、しきりにニュースの見出しを飾っている。経営する自動車会社テスラに米国証券取引委員会(SEC)の調査が入り、名誉毀損訴訟も起こされた。さらには、テレビの生放送中に大麻を吸っていた。何かとお騒がせなこの風雲児が次に発表したのは、ロケットを使った新たな挑戦だ。 マスク氏は17日、カリフォルニア州にあるスペースX本社で記者会見を開き、衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ社の前沢友作社長が、月周回旅行の最初のチケットを買ったと発表した。前沢氏が乗り込むのは、「BFR」のニックネームで知られる同社の大型ロケットだ。チケットの金額は公表されていないが、ロケットの製造と
スイスのジュネーブ近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)のATLAS検出器。ATLAS実験チームは今回、別の実験チームとともにヒッグス粒子の崩壊を観察した。(PHOTOGRAPH BY BABAK TAFRESHI, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE) 物理学者たちは数十年前から、「神の素粒子」と呼ばれるヒッグス粒子を探してきた。宇宙を満たし、物質に質量を与えると考えられてきた粒子だ。ヒッグス粒子は2012年にようやく発見され、存在を予言した物理学者がノーベル賞を受賞した。そして今回、物理学者らがヒッグス粒子のボトムクォークへの崩壊を観察し、新たな洞察を得た。(参考記事:「「科学の大発見」はもうない?」) この研究は、ヒッグス粒子の崩壊を予測していた理論素粒子物理学にとっても、数十年がかりで実験装置を建造した欧州原子核研究機構(CERN)にとっても、非常に大きな業
新たに発見されたクリプトキーパー。どうやって宿主を操っているのかは、まだわかっていない。(PHOTOGRAPH BY ANDREW FORBES, UNIVERSITY OF IOWA) 新たな寄生バチが発見された。その悪魔のような生態から、混沌を司るエジプトの神セトにちなんでEuderus setと学名が付けられた。通称はクリプトキーパー。“棺の番人”という意味だ。 米国南東部に生息するこのハチは、別の寄生バチであるタマバチの仲間Bassettia pallidaが作った「虫こぶ」に卵を産みつける。虫こぶは、寄生バチの幼虫などが木の一部をふくらませて作る突起で、このタマバチはカシの木に虫こぶを作る。(参考記事:「虫こぶ――虫がつくった究極の芸術作品」) 虫こぶに産みつけられた卵が孵化すると、クリプトキーパーの幼虫は自力でタマバチに寄生してその体を乗っ取り、木に穴を開けて外へ出ようとする。
寄生バクテリアの一種、ボルバキアに感染したハチの卵。染色により感染の様子が観察できる。 Photograph courtesy Merijn Salverda and Richard Stouthamer via NSF 急速にその数を増やしている寄生バクテリアがいる。このバクテリアは、宿主を性転換させて単為生殖化を引き起こすだけでなく、宿主を“気味の悪い怪物”に変身させてしまう。このような大惨事ともいえる生殖異常を引き起こす仕組みが最新の研究で解明された。その方法とは、免疫系を停止させることだという。 キョウソヤドリコバチをはじめとする寄生ハチ3種のゲノムを初めて解読した研究者チームによると、バクテリアの一種であるボルバキアはハチの遺伝子を操作し、バクテリアの侵入に対して警報を発するタンパク質を抑え込んでしまうという。その結果、バクテリアに対する防御機構が機能せず、ボルバキアは悪事を働く
英国の研究チームの発表によると、ストーンヘンジの建設に使われた石の一種、ブルーストーンが採石された場所と時期が特定されたという。(Photograph by Jim Richardson, National Geographic Creative) 英国の考古学者チームが2019年2月に学術誌『Antiquity』に発表した調査結果により、ストーンヘンジに使われている石の一部がどのように採掘・輸送されたかが明らかになった。 調査チームによると、5000年ほど前にストーンヘンジの建設に使われた特徴的な「ブルーストーン」が、英国ウェールズにある新石器時代の採石場2カ所で切り出されたことを示す数々の証拠が発見されたという。(参考記事:「沈黙の巨石 ストーンヘンジの謎」) かつてストーンヘンジに立っていたと推定される約80個のブルーストーンのうち、現在残っているのは43個。ブルーストーンはストーン
冥王星の山々や氷の平原や谷が日没の光にほのかに輝き、かすんだ空も光を放っている。(PHOTOGRAPH BY NASA/JHUAPL/SWRI) 冥王星はきわめて小さな天体だが、流れる氷河、興味深いくぼみのある領域、かすんだ空、多くの色を持つ風景など、信じられないほど多様な特徴が見られる。溶岩ではなく氷を噴き出す「氷の火山」や氷に浮かぶ山々があり、さらに衛星は予想もつかない動きをしているようだ。(参考記事:「冥王星“接近通過”をめぐる10の疑問に答える」) 2015年7月に冥王星へのフライバイを成功させたNASAの探査機「ニューホライズンズ」の科学者チームは、11月9日、米国天文学会惑星科学部会の年次総会で新たな観測結果を発表した。観測データが示す冥王星は、事前の予想とは全く異なる天体だった。(参考記事:「冥王星の三つの事前想像図」) ニューホライズンズの主任研究者であるアラン・スターン氏
ハッブル宇宙望遠鏡による初めての冥王星写真 1994年、冥王星とその衛星カロン(右)を撮影したものとしては当時最も鮮明な写真だった。ハッブル宇宙望遠鏡の微光天体カメラによる画像で、2つの天体がはっきりと写っているが、その他はほぼ何も見えない。(PHOTOGRAPH BY DR. R. ALBRECHT, ESA/ESO SPACE TELESCOPE EUROPEAN COORDINATING FACILITY; NASA) NASAの探査機「ニューホライズンズ」は、日本時間の7月14日午後9時ごろ冥王星へ最接近した。それから数時間に渡って、探査機は旋回しながら7台の機械をフル回転させ、冥王星と5つの謎多き衛星の観測を行った。 1930年にクライド・トンボー氏が初めて発見した当時の冥王星は、おびただしい数の星々にまぎれて小さく光るひとつの点だったのが、技術の進歩により、画像は次第に鮮明なも
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