坂部恵氏は、一九七六年一月に『仮面の解釈学』、同六月に『理性の不安―カント哲学の生成と構造』を出版している。刊行は前者のほうが少し早いが、所収論文は後者のほうが早く書かれている。つまり、この二冊は、ほとんど同時に書かれ、同時に出版されたといってよい。しかも、たまたまそうなったのではない。それは、意志的になされてきたことの必然的な結果なのである。 この二冊は連関しつつも、ある意味で異質な著作である。『理性の不安』はカント、つまり、西洋哲学の可能性をめぐる本である。それに対して、『仮面の解釈学』は、日本と日本語で哲学することが可能か、可能だとしたらいかにしてかを問うような本である。日本で哲学を志す者なら、西洋哲学を目指すだろう。しかし、自分が日本と日本語という現実の中にあるということを無視することはできない。ゆえに、誰でも早晩その問題に直面する。その場合、幾つかのタイプがある。大きく分ければ、