第2章 契約 ――11時47分(連載第19回) 「俺の親父、宝くじで1億円が当たった……」 オッサンは驚いたように、えっ、と訊き返す。 「いや、正確に言えば1億円当たったと噂になったんだ。でも、本当に当たったわけじゃない。そのとき、親父が当たった宝くじは5等1万円が1本だけ。それも3万円分買って」 オッサンは何も言わず話に耳を傾けている。 「俺の実家は企業城下町にあって、じいちゃんの代からそこに住んで、親父も俺もその街で生まれ育ち、その街で働いてきた。それが当たり前だとみんな思っていた」 学校はその企業が造った工業高校の情報工学科を出た。そのまま俺は情報処理系の関連子会社に就職した。3代続けて同グループ企業の社員。母方も似たようなものだが、地元では珍しくもなんともない。 「親父は本社工場に勤務していて、その工場内にある宝くじ売り場から1等が出たことが分かったんだ」 もちろん工場は大騒ぎにな