おでんの暖かさが恋しい季節になると思い出す。世間知らずのまま東京に来たあの頃、「ちくわぶ」という食べ物を初めて見た。噂では聞いていた。憧れていたと言ってもいいかもしれない。どうやら関東人にはメジャーな食べ物である事。ちくわに似た形状出ある事。おでんには欠かせない具である事。一体どんな味なんだろう。それが目の前にある。私はスーパーの練り物コーナーから、想像以上にズッシリとした重さと大きさと存在感をもったそれを手に取った。 おでんに合うのは熱燗だ。ひとり土鍋でグツグツと。大根の旨味が広がる口を酒でさっぱりした後、いよいよ念願のちくわぶ。 「なんじゃこりゃ、ボッソボソやんけ」 煮込みが足りなかったのだろうか?しばらくしてまた一口。いつまでたってもボソボソだ。ん、食べ方が違うのかな?でも、煮込みだろ?粉っぽい口中。不安になってくる。煮込んでも煮込んでも、外はグズグズ、中はボッソボソ。やがてそれは伸