★丹治信春『クワイン』(講談社) 『論座』1998年3月号,pp.272-273. *現代哲学のカリスマの明快な手引き 1998 いま刊行中の「現代思想の冒険者たち」シリーズの第19巻である。知的好奇心旺盛な社会人の中にも、「クワイン? 聞いたことないな……」という人が多いかもしれない。しかし、ことし90歳になるアメリカの哲学者ウィラード・ファン・オーマン・クワインこそは、今世紀後半の哲学界で最も過激なテーマセッティングを行ない、常に議論の中心となり、最も尊敬されてきた現代哲学のカリスマなのである。現存最大の哲学者を五指、三指と絞っていって、最後にひとり挙げろと言われたら、ほとんどの事情通はこのクワインに投票するに違いない。 それなのになぜ日本でクワインの名が広く知られていないかというと、一つには知の市場のネットワークがフランス思想中心にできあがっていて英語圏の哲学はまだまだ認知度が