本書は『最古の文字なのか?』がメインタイトルで、サブタイトルが「氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く」。一瞬、メインとサブが逆なのではないかと思ったほどであるが、これこそがまさに「名は体を表す」であった。 洞窟に入って壁画を見れば、誰だって巨大な牛やウマの絵に目が向くことだろう。たしかに絵のような芸術品は、太古の人々の生活を具体的なイメージとして捉えることができ、見ているだけで時間を忘れさせてくれる。 しかし、本書の著者ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガーの着眼はひと味違った。岩絵の脇に描かれた小さな幾何学記号の模様、そこへ注目したのだ。多くの人にとって見落とされがちな幾何学記号の集積が、やがて壮大なミステリーのように雄弁に語りかけてくることになるから、コミュニケーションとは奥が深い。 塵が積もれば山となるように、無意味も積もれば意味をなす。著者は、ヨーロッパ中の氷河期の遺跡を這いずり